2008年8月29日金曜日

米大統領選挙(35) オバマ受諾演説

四日目民主党大会のクライマックス‐オバマの大統領候補指名受託演説はデンバーInvesco Stadiumに舞台を移して行われた。 通常フットボールゲームで満員になっても65,000人のスタジアムに85,000人ものオバマ支持者がつめかけた。 政治のコンベンションとしては空前の規模である。 

演説の前に彼のBiographyがスクリーンに流された。 彼は公民権法が施行された後に生まれたとはいえまだ人種偏見の根強く残る1960-70年代に彼がまっすぐに将来をみて育ってきたのはなぜなのかを明らかにする答えがここにあった。 それは母と祖父母の愛情であり強く生きていれば未来が開けるという希望があったことである。 その上にアメリカのオープンな教育システムがあった。 オープンな選挙システムがあった。 彼がここまで成功したのは愛情、教育、真の民主主義的政治システムのおかげだということを彼自身がよく知っている。 彼のBiographyと演説の間に乖離はない。 
彼がハーバード・ロースクールを卒業した後引く手あまたの東部法曹界、金融界を振り切ってシカゴに戻りサウスサイドシカゴの恵まれない人々のために活動を始めた。 彼は卒業と同時に政治の原点の活動を始めたのである。 貧しい育ちの人は豊かな生活を求めて勉学に仕事に励む。 恵まれた環境に育った人たちでさえより豊かな生活を求めて勉学や仕事に励む。 これは何も悪いことではない。 しかし彼は自分自身の生活ために勉学に励んだのではなく生きるために苦労している人々を助けるために自分が何をするべきか初めから問い続けた。
この事実だけで彼が本当の政治家としての資質・資格を備えているといっても過言ではない。
だがそれだけでは大統領指名候補にはなれない。 マイノリティの票を100%結集しても白人の大きな支持がなければ今のアメリカでは指名候補にはなれないのである。 言い換えればケネディ家を初めとする進歩的なアメリカ人が年月をかけて本当に開かれた市民社会を目指して活動してきたからこそ黒人大統領候補が誕生した。 これはオバマの勝利というよりもアメリカ市民社会の勝利というべきであろう。  だから今回の民主党大会は民主党のみならず多くの自由人、共和党の一部リベラル派も含めて大いに盛り上がりアメリカの前進として喜んでいるのだ。

オバマの指名受諾演説は彼の信念・政策を力強く明確にアッピールした。 ブッシュ政治とマッケーンの政策が90%はオーバーラップしていることを指摘しながら強烈にマッケーン・キャンペーンを批判した。 その上に家族の絆が大事であること。 無駄な戦争はしないこと。 国民皆保険を目指すこと。 教育を質の高い充実したものにすることなど予備選キャンペーンから打ち出してきた政見の総まとめを披露した。 Biographyから彼の演説の終わりまで彼の言動にはうそがない。 政策実行の段階になって多くの制約があることは彼自身も国民もわかっている。 大事なことはアメリカが目指す方向を内外にはっきりと示すことであり将来に改革の希望があるかどうかということだ。 オバマはそれをはっきりと国民に示した。 そしてこの選挙は「私の選挙ではなくあなた方の選挙なのです」と締めくくった。 その通りだ。