2009年3月19日木曜日

AIG Bonus-新たな展開

Bailoutを受けたAIGのボーナス支給が全米の激怒を買っている。
3月18日の下院金融小委員会でのAIGボーナス問題に対する公聴会は全米注視の中で行われた。 世界規模の保険事業、ウォールストリートの金融事業の実態を知る上でも大変参考になった。 
公聴会に召還されたのは現CEO、Edward Libby氏。 彼は昨年9月にAIGの破綻が問題になったときにポールセン前財務長官に依頼され就任したCEOで経営再建請負人のような立場にある。 過去の巨額損失の直接の経営責任者ではない。しかし先週末418人のAIG Executivesに支払われた$165Mil.の巨額ボーナスの背景をしるトップ責任者である。
 
午前中は保険事業とAIG Operationの実態を知るための準備公聴会みたいなもので格付会社のStandard Poorはじめ4社から事情聴取が行われた。 事前にブリーフィングを行わねばならないほど保険事業の内容は複雑で理解が難しいということだ。 現実に保険のオペレーションするとなると株式や商品の取引とは違って専門的な知識とHandling (推測だがデリバティブ)が必要となる。 実務的には他人がオペレートしているポートフォリオを即座に引き継ぐことなど不可能である.  充分に内容を把握しないで引き継ぐようなことになればオペレーションの規模が巨大で世界のマーケットに広がっているだけにオペレーションの混乱と市場の崩壊を招く危険性がある。
直接オペレーションに携わっている社員と役員はこのことをよく知っている。 彼らは所詮AIGのオペレーションは縮小、解消するものと思っている。 Libbyの証言でこれらのことが明白になった。 彼らはAIGに恩義を感じたりはしない。 出来るだけ早く次の職場を見つけることに関心が向くのは当然のことだ。 この辺事情はアメリカで若干なりとも市場オペレーションを経験したものでなければ理解しがたいとおもわれる。 今回のAIGのボーナスがPerformance BonusやNon-Performance BonusでなくすべてRetention Bonus(社員の引きとめのため)であることが当事者の心境をあらわしている。この取引の仕組みをよく知っている人、また内容を知れば知るほどAIGのオペレーションが崩壊した場合の市場の混乱と金融市場崩壊を危惧したと思われる。 こが今回のボーナス事件の核心と背景である。
だからオペレーションのキイマンを引止めるため昨年と同様のボーナスを保証し今後1年の間にAIGの損失と市場のダメッジを最小限に食い止めながらオペレーションを縮小、または解消することを約束させたものと考えられる。 

ここまでは私個人として理解できる範囲であるが新たな疑問が持ち上がった。 
昨年と同額のボーナスを保証したということは昨年も同じ巨額のボーナスが支給されていたという事だ。 勿論市場・会社経営状況が違うが昨年も$165Mil.のボーナスが支給されたという事実はAIGという会社のCompensation Plan(給与制度)に実態がどのようなものなのか解明する必要があると思う。 おそらくこの業界では過去永い間にこのようなボーナスを含む報酬システムが出来上がったのであろう。AIGだけではあるまい。 Wall Streetの金融界全体が一般には理解しがたいほどの異常なCompensation Systemであるに違いない。
 
巨額の報酬を得る人はWall Streetだけでなく他にも多くいる。 Bill GatesやWarren Buffetsのように自分の資金と自己責任でオペレーションする人ならいくら稼いでも非難する人はいない。 しかし特別の専門知識をもちあわせているとしても自己責任のない人が(自分が損失を被らない人)数百万ドルの報酬を得ることは納得できない。
公聴会席上でLibby会長は$10万以上ボーナスを受け取った社員は50%返還すること同意していると述べた。 しかし基本的な問題はこれでは解決しない。 国民が疑問に思い問題にしているのは

それほど巨額の報酬を払う根拠はどこにあるのか?  (ボーナスの金額は正当か)
社員との契約があるからといって破綻する会社がそもそもボーナスを支払わねばならないのか? (契約優先)
Bailoutした金で社員にボーナスを支払う正当性はあるのか? (税金投入・救済の正当性)

倒産と失業の嵐が吹き荒れるなか国民の怒りは収まりそうにない。 下院は地元住民の考えに敏感であり怒りが頂点に達しているのを知っている。 しかも議会とAIGの間でボーナス返還交渉を開始してもAIG自体が社員と交渉しなければならないので時間のかかる交渉である。 また当然双方弁護士を通じての交渉だから事態が急速に進展するとは考えられない。
こんな中で下院の対応は早かった。
支給されたボーナスに対して90%を課税することを即日可決してしまった。 公聴会でボーナス返還の意見が出てから24時間も経っていない。 立法府の面目躍如といったところだ。
上院下院とも全員が今は非常事態であり後ろ向きな事件に長くかかわっている時期ではないと思っている。  (ただし共和党の一部はガイトスナー財務長官の辞任を要求)
公聴会が終わりどうのような形にせよボーナス返還の目途がついた時点でAIGボーナス事件そのものは山を越したような印象を受ける。 しかしメディアと国民はまだまだ納得していない。したがってこの事件はPrivate Company に対する議会と政府の基本的な関わり方に焦点を移し財務長官の引責問題に発展するかもしれない。 まだまだ政治的には一波乱ありそうだ。

2009年3月17日火曜日

倒産でも巨額のボーナス

アメリカに長い間住んでいるがこのところ最も腹立たしい日が続いている。 先日のMadoffの史上最高額の詐欺事件(ねずみ講)に続いてAIGのボーナス問題だ。 世界最大の保険会社が世界最大の負債を背負って倒産しそうなのであるがその影響があまりにも大きく米国のみならず世界の保険制度や金融制度が崩壊しそうなので潰せない。 米国政府も倒産させるわけに行かず$180Billionもの公的救済資金を注入し存続させた。
ところがその中からAIGは$165Millionものボーナスを400人のExecutivesに支払ったというのだ。  Top 7人は$400万を超え、100万ドル以上が73人、平均が40万ドルという。 金持ちが尊敬されるアメリカでもさすがにここまで破廉恥な経営者はきいたことがない。 オバマ大統領以下、ガイトナー財務長官、政府関係者はもとより議会の全員、国民全員が激怒している。  
AIGは今回の大不況の原因となった金融界一翼を担う巨大会社。 しかもリスクマネージメントを本来の業務とする保険会社。 経営の失敗で政府の資金援助を受けている巨大企業がこともあろうに巨額のボーナスを経営責任を問われるExecutivesに支給するとは開いた口がふさがらない。 本来ボーナスとは業績に付随して支払われるものと大抵の人は思っている。 政府の援助がなければボーナスの代わりに全員失業手当を受け取っていた人達なのに。
不況のあおりで失業したり倒産した経営者はこのままでは収まらない。大きな政治問題に発展しそうである。 資金を安易に提供したオバマ政権の責任を免れない。

AIGがボーナスを支給した理由が振るっている。 約束どおりボーナスを至急しないと優秀な人材が流出し再建が出来ないとなると国家にとっても損失であろうと。 もし本当に優秀で経営に長けた人材であればこれほどの失態を重ねなかっただろうと思われる。 厚顔無恥とはこのことだ。最近の金融界のトップはここ十年ほどで堅実な銀行マンタイプの経営者が追い出されブッシュ政権の自由化が招いたバブル経済の勢いで単に向こう見ずな“行けいけ”路線に乗っかった向こう見ずな経営者が実力を握っていたといわれている。 CitiBank, Merrill Lynch, Lehman Bros. AIG などがそうだ。 
日本なら債務不履行に追い込まれた経営者はひたすら謝り辞任せざるを得ないところで税金の投入で生き延びた会社の経営者が巨額のボーナスを手にするなど天と地がひっくりかえってもありえない。 単に日米の感覚の違いといって済まされる問題ではない。
オバマ政権はとんでもない問題を抱え込んでしまったものだ。

2009年3月13日金曜日

日米レイオフ事情

失業は最大の社会悪-日米レイオフ事情

不況が深刻化する中で日米とも人員削減が広がっている。 
特にアメリカでは不景気ともなればすぐにレイオフに走るのは通常の手段で今回の場合は金融、製造業、サービス業などほぼ全産業にわたり企業の大小を問わず大幅なレイオフが行われている。 失業率が26年ぶりに8.1%と示すとおり経済は急速にに縮小しつつある。 
NJは比較的ましなのか身の周りに失業者がいないのでそれほど実感はないが産業全域に不況が拡がっているのでレイオフされた人は以前のようにすぐに他の職場が見つかるわけではない。 本人は収入を閉ざされるだけでなく保険も失い生活は破壊されてしまう。 本人のみならず子供も学業を放棄しなければならないのは悲劇だ。失業の数字はAverageだが失業した人は99%を失いそうでない人との差は天と地ほどの違いが出てしまう。 失業は最大の社会悪といってもよい。
レイオフはアメリカの企業で日常茶飯事、合理化の常套手段といえどもセンシティブな問題に変わりなく下手すると訴えられるがゆえにレイオフには神経を使う。 最も一般的に行われるのがSeniority Rule といわれるもので入社年度の若い人から順番にレイオフするわけだ。 これなら基準がはっきりしていて問題は起らない。 つまり解雇に際して訴訟問題を避けるために優秀で重要なポジションにいる人材でも入社暦が若ければレイオフの対象になってしまう。 会社が伸びていて毎年採用をしている状況であれば一般的に従業員の平均年齢は若く保てるがSeniority Ruleでレイオフを繰り返していると年配の従業員ばかり残ってしまう。 現在会社存続の危機にあるGMがよい例である。 恒常的に経営困難にさられレオオフを繰り返している航空各社にも同じことが云える。 企業のリノベーションが成功するには内部にそのリノベーションを受け入れるだけの柔軟さがあればこそで、GMには経営者にも従業員にもUAWにもその柔軟さは認められない。 GMはうまく破綻(管理倒産)するしか生きる道はないだろう。 文字どうりご破算で再出発を願わなければならないのだ。

日本では派遣切りが問題となっている。 私は派遣制度そのものが悪いと思っていない。
派遣は短期的に必要な労働力を効率的に使うシステムであって採用側も応募する側にもメリットがある。 私はアメリカで採用する側にいたが初めはパートタイマーで雇って仕事をさせたあと優秀であればよく正社員として採用したものだ。 アメリカでは時間をかけて従業員を教育するような余裕もなく一般に即戦力を採用するからしばしば期待を裏切られることが多い。 一旦採用するとすぐ首を切るのは難しいから初めにパートで試してみてよければ正社員にするほうがリスクが少ないのである。 アメリカでは労働の流動性がありは働く方にとってもチャンスとチョイスが多くある。 
派遣制度でも正社員に採用されるチャンスが開けており途中入社でも能力に応じて社内で相応の給与が支給されるというのであれば問題はないはずだ。 要は会社側がいつでも外部の人間を採用できるだけの柔軟性を持ち合わせているかどうかの問題である。 単に派遣切りはいけないといるのでは日本の労働問題は一歩も前に進まないと思う。

正社員も聖域でなないと思うが今のところそれほど深刻とは思えない。 しかし不景気がもっと深刻になれば正社員の首切りも始まるだろう。 この場合はアメリカと逆で高給取りの年配者が対象になることが多い。 なぜならば日本の会社ではまだ年功序列が一般てきだから年配者ほど給料が高い。 経営効率だけ考えれば高給者をレイオフするほうが人件費を削減できる。 
永い間日本の会社はなるだけレイオフを避けできる限り雇用を維持してきた。 それは自体は悪くないが年功序列と平行して維持されてきたためきわめて労働効率はわるかった。 バブル崩壊後実力主義・実績主義が叫ばれ試行錯誤されてきたが日本の社会と日本人のセンチメントには合わないのかあまり成功例を聴かない。 労働のインフラ・労働市場の概念を政治的にも観念的にも転換しないと欧米の制度だけ真似ても実効はないだろう。
派遣制度、年功序列、定年制、医師 看護士不足、医師のインターン制度、 残業問題、移民受入れなどすべて労働にかかわる問題が山積している。ワーキングシェアーを含めて早急に労働(力)問題を考えなおさなければならない時期にきている。