2008年1月29日火曜日

米大統領選挙(その9)  フロリダ予備選

1月29日 フロリダ予備選


アメリカの選挙はいろんなことが起こるものだ。
フロリダといえば2000年の本選で共和党ブッシュと民主党ゴアが最後の最後までDead Heatを演じた選挙が思い出される。 投票用紙の穴の開き方が原因で再カウントになりそれでも決着がつかないので連邦最高裁判所の決定でブッシュが大統領に就任した経緯がある。

今回は予備選なので問題は深刻ではないが1月29日のフロリダ予備選では民主党の投票はカウントされないことになっている。理由はフロリダの民主党が本部の承認を得ずに予備選を予定より早くしたことでペナルティとして投票の結果が出てもDelegates数は当てられないことになった。 したがって候補者たちは大票田フロリダ(総有権者数1020万人)には遊説には行かなかったのである。 しかし173万人もの有権者が民主党に投票にした。 選挙に対する関心の大きさを示すものだ。

一方共和党本部は投票の結果を尊重しDelegatesの獲得数に反映することにしたのである。 だから共和党の候補者たちはこの大票田で最大のキャンペーを繰り広げている。
特に元NY市長ジュリアニは1月3日のアイオワから始まった予備選を先週のS.カロナイナ州まで少数票田の州を殆ど無視してキャンペーンをせず殆どの時間と巨額の資金($3500万)をフロリダに注ぎ込んだ。 
予備選が始まる以前はPollでトップを走っていたジュリアニもこれまで6州の予備選で満足な結果を得られず〈殆ど4位-6位〉どんどんモメンタムを失ってしまった。
フロリダ予備選直前のPollではマッケーンとロムニーがトップ争いを繰り広げているのにジュリアニは4位に止まっている。 これは選挙戦略の大いなる間違いだと指摘されている。


開票の結果
民主党: クリントン(50%) オバマ(33%) エドワード(14%)
Delegates獲得数のないコンテストといえどもこの大差の勝利は圧倒的な支持を証明したわけで1週間後に控えたSuper Tuesday に向けて大きな力になるだろう。

共和党: マッケーン(36%) ロムニー(31%) ジュリアニ(15%) ハッカビー(13%) フロリダ予備選では勝者が全部のDelegates(57)を獲得するシステムだからマッケーンの勝利は大きい。 今までDelegates獲得数ではロムニーの後塵を拝していたがフロリダを獲得して一気にトップに躍り出た。 ジュリアニは$3500万もの大金を注ぎ込んだにも拘わらず15%にとどまりこれ以上キャンペーンを続ける意味も勢いも無くなってしまった。 ジュリアニは知名度が高くてもあくまでNYのジュリアニでありAll Americanでのジュリアニにはなれなかった。  この結果をみてジュリアニは早々に戦線離脱を決定しマッケーンのEndorseを決めてしまった。 ジュリアニとしてはこの結果を持って明日のロサンジェルスでの共和党ディベートに出たくなかったのだと思う。

1月初めより4週間にわたる予備選を見てまるで時間を置いて1人で全区を走る駅伝のようだと思った。 スタミナ(資金)不足で早々に脱落してしまう候補者がいる。 応援が無くて途中で棄権するものも出る。 スタートで出遅れ前半で勝負を投げてしまうものがいる。
前半の最大のヤマ場が来週2月5日のSuper Tuesday (ニューヨークとカリフォルニアを含む22州の同時予備選) 箱根駅伝の山登りみたいなものだ。 たいていの場合はここで勝負が付いてしまう。 今のところ共和党では本日勝利したマッケーンがジュリアニのEndorsementを得て俄然有利になった。 
民主党ではクリントンが有利だが来週までに合従連衡が起こらないとも限らない。
しかし今回の予備選は民主・共和両党ともデッドヒートが続き決着は付かないかも知れない。 
いよいよSuper Tuesdayだが明日30日にはロスで共和党のディベート、明後日には民主党のディベートが控えている。
各候補は今頃夜行の飛行機で西岸に移動中 飛行機の中でもバスの中でも休みなくレポーターの質問を次々に受ける候補者。 心身ともにタフでないと勤まらない。 

2008年1月27日日曜日

米大統領選挙(その8)  民主党 SC予備選

米大統領選挙(その8)

1月26日 民主党 S カロライナ州予備選

1月26日 S.カロライナ州で民主党の予備選(Primary)が行われた。
午後7時に投票が締め切られたが開票を待たずにCNNはオバマ候補の「当確」を発表した。
CNNは出口調査で大差をもってオバマ候補が勝利することを確信していたのである。
投票結果はオバマ(55%) クリントン(27%) エドワーズ(18%)とオバマ候補の圧勝となった。 若者の圧倒的な支持を始め黒人の78%、女性の(54%)白人の(24%)を集めてクリントン候補の得票を引き離した。

同じ民主党の中で政策的には殆ど異なる点はないため争点は今までの実績評価になりがちで当然経験豊富なクリントン候補が有利に展開してきた。 彼女は政策的には明確で頭も切れるし口も立つ。 1月25日にはNY Timesが彼女をEndorseしたように現実的には最も大統領としての資格(qualified)を備えていることは間違いない。 女性大統領誕生の可能性は非常に高い。 しかし大統領は政策遂行能力以上のカリスマ性が必要ではないだろうか。

一方オバマ候補は政策としてはいまひとつ曖昧な点がありディベートでもクリントンに一歩譲っているように思われる。 演説もクリントンのように“立て板に水”ではない。
しかし彼には未知の可能性-現状の改善に止まらない新しい世界への希望がある。 民主党・共和党の枠を越えた新しいアメリカの模索を感じさせる希望の星なのである。 通常ならば民主党の候補が共和党の大統領を引き合いに出して彼の精神を尊重するなどと発言することはありえないがオバマは公言してはばからない。 彼はレーガン大統領の“Reagan Coalition”の信奉者なのだ。 レーガンは民主党支持者(Reagan Democrats)も巻き込んで国民の圧倒的な支持を得て大統領に就任した。 オバマ候補も党派を超えた大統領になりたいと国民に訴えている気持ちが伺われる。 この点が多くの若者の期待と支持を集める由縁である。


彼はこの予備選に勝利して次のような演説をした。

 「3週間前のアイオワでの勝利がまぐれでないことを証明した。 この選挙は地域の争いではなく宗教間の争いやGendersの争いでもない。 Rich vs. PoorでもなくOld vs. YoungでもなくBlack vs.Whiteでもない。 ・・・この戦いは過去対未来である。改革は容易ではないが必ず可能である。 政治は共同の犠牲・負担と共同の繁栄を目指すものだ。 我々は必ず達成できる。 Yes We Can!  Yes WeCan!  Yes We Can! 」

会場は新しい大統領が誕生した時のような熱気にみちていた。 また彼の演説は新しい大統領の就任演説のようであった。 彼の演説は人々に希望を与え奮い立たせるような時空の広がりを感じさせる。 そしてなにか熱い気持ちが伝わってくる。 若者に圧倒的に支持される由縁である。 私は50年ほど前のケネディ大統領の就任演説 の言葉 

“My fellow Americans, ask not what your country can do for you; ask what you can do for your country.”

を思いだしたが同日故ケネディ大統領の長女キャロラインさんがオバマ候補をEndorseするとのニュースが流れた。 1週間あとに迫ったSuper Tuesdayに合わせた絶妙のタイミングと言える。  John F. Kennedy, Robert Kennedy, John Kennedy Jr. などの主役を失ったとは云えTed. Kennedyを頂点とするケネディ家の政界への影響力は今も絶大である。

今回の勝利とケネディ家のEndorsementはオバマ候補にとって数字以上に大きな意味をもっている。 2月5日のSuper Tuesdayに大きな影響を与えるだろう。 

しかし各州のPollはまだクリントン候補がリードしておりクリントンは多くの組織票(Union)を固め経験豊富で強力な選挙組織がフルに回転するはずだ。 

モメンタムはオバマに傾いているが予断を許さない。 オバマ頑張れ! Yes You Can!





2008年1月20日日曜日

米大統領選挙(その7)  SC&NV予備選

S. サウスカロライナ州&ネバダ州予備選 (1月19日)

サウスカロナイナが注目されているのは共和党では1980年以来サウスカロナイナ州で勝利した候補が共和党の大統領候補に選ばれているからだ。
しかもアイオワ、ニューハンプシャー、ミシガンの3州の予備選ではトップがそれぞれ入れ替わっているダンゴレース。 メディアはニューハンプシャーでの読み違いに懲りてなかなかPollを 発表していないので全く予想がつかない状況であった。

今回は初めての南部での予備選、 伝統的保守派が優位な社会、全米で最も黒人比率が高く(30%)-民主党票の50%を占める。  キャンペーンもこれまでとは違った展開をみせていた。 ミシガンでは経済問題が最重要課題であったがここでは候補者の価値観やパーソナリティが選挙民の選択肢となった。 

このような背景からすればハッカビーが僅かに有利で勝利すると思っていたが結果はマッケーンが33%を獲得してハッカビー辛勝した。 ハッカビーにとっては同じ南部を基盤とする保守派トンプソン候補が検討して16%の票を取られてしまったのが痛かった。
Primary 結果:マッケーン(33%) ハッカビー(30%) トンプソン(16%) ロムニー(15%)
マッケーンはここで弾みをつけてフロリダ経由Super Tuesdayに乗り込むことができる。 
ハッカビーも健闘しているのでSuper Tuesdayまではなんとしても頑張るだろう。

ミシガンで勝ったロムニーもフロリダに賭けているジュリアニもフロリダで勝たなければモメンタムをキープすることは難しい。(ロムニーは同日ネバダ州で勝ったが票が少なく問題にならない)

一方民主党は同じ日にネバダ州でPrimary予備選がおこなわれるため候補者はラスベガスに集中している。1週間遅れの1月26日にS.カロライナ州で予備選が行われる。
共和党も同日ネバダ州でPrimaryが行われるが全員S. カロライナに集中しているので実質的には今回は両党別々に予備選が行われていると言ってよい。

ネバダといえばラスベガス. カジノ以外に何もないといってもよい。 近年カジノの拡大・急成長で人口も倍増している。

(単位1000人)

Nevada    Population    Hispanic/Latino    African American
1900       1,202        124 (10.3%)       78 (6.5%)
2000       1,998        393 (19.7%)      135 (6.8%)
2006       2,495        610 (24.4%)      183 (12.4%)

特にHispanic/Latinoは5倍、黒人およびその他のマイノリティを合わせればマイノリティの比率が40%近くなると考えられる。 ホテルやカジノの下働きはほぼマイノリティの仕事で各職場ごとにUnion(組合)で組織されており候補者にとってはUnionのEndorsementが大きな支援になる。 政見が似通っており支持基盤が同じほど泥仕合になる傾向が強い。 
また選挙民のレベル・政治意識が低いところでは選挙活動・キャンペーンが次元の低い個人攻撃、単なる票集めのレトリックに終始しているようで残念でならない。マイノリティはほぼ民主党の選挙基盤だからクリントンとオバマで激しい票の奪い合いが演じられた。

予備選は党員による選挙だから規則は党によって決められる。(法律ではない) 今回ネバダでの選挙は投票所がカジノの中に設けられた。 (これはオバマ支持のCulinary Union (料理人組合)に有利としてクリントン側が抗議したが受け付けられなかった。)
TVで放映されていたカジノ・シーザーズパレスの一室で行われた民主党Primaryを見ていると英語がわからない投票者がかなりいる模様で係員がスペイン語で説明しているのが見てとれた。 PrimaryのChairwomanが投票者をオバマ支持者は部屋の右側にクリントン支持者は部屋の左側に集め未決定者を真ん中に座らせる。 グループごとに挙手させて支持を確認したあと投票用紙を回収する。 中立または未決定者を誰に投票するか決定させたあと総投票数を再確認する。ここでは熱気のある政策論議など期待できないしまともな選挙が出来ているのかどうかさえ疑わしい。
政治は現実だからきれいごとを言っては始まらないが選挙民のレベルが低いとレベルの低い選挙になりレベルの低い候補者が当選することになる。 それが選挙の現実かもしれない。
アイオワやニュウハンプシャーでみた投票風景とは全く違った雰囲気や光景で選挙に対する熱が少々冷めてしまった。

民主党では同日ネバダ州でPrimary予備選が 行われクリントンが(51%)を獲得して オバマ(45%)に勝利した。 エドワードは(5%)でジリ貧、もはや選挙をつづける意味が無くなってしまった。 早晩ドロップするだろう。 今後はクリントンVS.オバマの対決になるだろうが選挙経験が長く全国のクリントンマシーンがフル回転するクリントンの優位はさけられない。 選挙を終盤まで緊張させ本選に繋ぐためにも是非オバマ候補は頑張ってほしい。

2008年1月15日火曜日

米大統領選挙(その6)  ミシガン予備選

1月15日 ミシガン州予備選

ミシガン州は全米で最も失業率が高いところ。 当然経済が最大の関心事である。 
共和党ロムニー元マサチューセッツ州知事にとって生きのびるかここで終わるかの瀬戸際の戦いとなった。 「仕事は絶対取り戻す」とリップサービスに努め、地縁(デトロイト育ち) 血縁(?彼の父が3期ミシガン州知事を務めた) 金縁(他の候補の6倍もの資金を注ぎ込んだ)をフルに活用してやっと勝利(40%)を勝ち取った。  
一方これから打って出ようという元NY市長ジュリアニは僅か3%しか獲得できずVery Disappointed、 いくらフロリダで巻き返そうとしてもこれだけ出遅れては勝ち目が薄い。 アイオワ(ハッカビー) ニューハンプシャー(マッケーン) ミシガン(ロムニー)でレースは振り出しにもどった。 19日にはS.カロライナ、29日フロリダと続くが2月5日のSuper Tuesdayまで大勢は決らないように思う。


民主党は手続き上のミスで投票はしてもDelegatesの数はカウントされず(つまり選挙は無効)
ただの人気投票となった。それでもクリントン60%、オバマ候補やエドワード候補の名前はなく”Uncommitted”なるものが30%とワケのわからない選挙となった。<民主党員はまともに投票に出ていないと思う>
(ミシガン州は予備選をSuper Tuesday以前にもってきたが民主党が期限までに手続きしなかったのでペナルティを課せられ投票は無効となった。)
ここに来て民主党の候補者選びは人種問題が絡んで双方が非難しているのは好ましくない。
人種問題を意識して攻撃しているのではないがいずれにせよ仕掛けているのはクリントン側、一方オバマの取り巻きが選挙戦術としてこれを逆手にとって逆襲。 双方ともイメージを悪くし漁夫の利を得るのは共和党だ。

予備選の経過を見るとアイオワ(中西部、農業州白人社会)ニューハンプシャー(東北部、産業的インパクトはないがベーシックな市民意識が高い白人社会)ミシガン(自動車産業中心地、黒人、外国移民を含む産業労働者が多い。失業率全米1位) 今週末はS. カロライナ(南部保守的、黒人比率が最も高い-30%),
全米最大の軍事基地がありイラク戦および国防政策への関心が高い) 26日フロリダ(ラテンアメリカ、カリビアン、キューバからの移民、また気候が暖かいので退職者が多い。)
Super Tuesdayまでにこれだけの予備選があってディベートを重ね選挙を繰り返すと自然と候補者の考え方や人となりがわかってくる。 そこで2月5日にNY, カリフォルニア含む20州で一斉に予備選をやり大勢を決する。 どうしてこのような選挙の仕組みになったのかわからないがまことによく出来た選挙方法ではなかろうか。

2008年1月13日日曜日

米大統領選挙(その5)  共和党ディベート

1月10日 共和党ディベート

1月19日にS. カロライナ州で共和党予備選(Primary)を控えて1月10日にマータルビーチ、SCで共和党のディベートが行われた。 民主党のPrimaryは1週間遅れの1月26日だ。 
ここまで来てさらにディベートが用意されているのに驚いたが予備選が進むにつれて候補者も政策の論点も絞られてくるからに詰まった論議が展開されて面白い。 観るほうにしても候補者の信条や経歴、弱点など予備知識が出来ているから理解し易い。 
ディベートに招かれたのはマッケーン上院議員(Navyパイロット、元ベトナム捕虜) ハッカビー元アーカンソウ州知事(元牧師) ロムニー元マサチューセッツ州知事(投資会社元CEO) ジュリアニ元NY市長(対テロ対策強化、ブッシュ支持者) トンプソン上院議員〈元ハリウッド俳優〉 ポール下院議員〈議員生活40年、共和党唯一のイラク戦反対、即時撤退主張〉の6名、顔ぶれも経歴も多彩である。 ディベートの中で各候補の言葉に経験がおのずと滲み出す。
ディベートでは抽象論・観念論やレトリックだけでは通用しないことを候補者たちは充分承知しているから自ら係わった政策、事業を例に挙げるか、または他の例(今回はReagan Coalitionがたびたび取り上げられた)を引き合いに出して議論する。
どこかの国の選挙みたいにファミリーネームだけが大きい2世・3世議員が頭を並べひたすらにお願いを繰り返すのとは次元が違う。

ディベートはほぼ経済問題と不法移民対策に集中された。
アメリカの経済はリセッションへの入口との認識が共有されたがマッケーンとジュリアニは減税、Family Valueの建直し、アメリカ優位を貫くための軍事力強化によっていわゆるレーガン流の”強いアメリカ“への回帰を強く主張した。〈ジュリアニはスマートで切れるがたびたびレーガンを引き合いに出していては古い話であり自分の存在が小さくみえるのでやめた方がいい〉
ロムニー、ハッカビー、トンプソン、ポールは“Washington is broken” とあからさまにブッシュ政権を非難しロムニーは企業経営とマサチューセッツ州知事時代の実績を上げてアッピール、ハッカビーもアーカンソウ州知事での改革と同じ手法で経済改革をすると主張した。
トンプソンは同じ南部出身であり支持層がハッカビーと競合している。ハッカビー保守層の票を取り戻すためにハッカビーを経済政策でも外交でも“リベラル”で(保守派の中でリベラルと呼ばれるのは“裏切者”といわれるのと同じらしい)“あなたのやってきたことはReagan RevolutionでもReagan Coalitionでもない“とこき下ろした。 〈ハッカビーはすぐに反論したがここでは省く〉
ポールは共和党内でも一匹狼だからまるで民主党員より激しくブッシュ政権やWashington Establishment非難した。
「(イラク戦争やサブプライム問題で)国内経済をガタガタにして中国とアラブから巨額の借金をし(Citi, BoA, Merrillなどが巨額の資金投入を要請)一方イラクで一つも仕事を取れずに巨大な戦費を垂れ流し、挙句の果てに高騰した石油を毎日買わされている。 一体アメリカはなしをしているのだ!」一段高い拍手と歓声が沸いた。 共和党民主党を問わず今のアメリカ人の声を代表していると思った。 これまで空振りばかりしていたポールの予期せぬホームランである。
経済問題はイラク戦争〈膨大な戦費〉と切り離せない。 イラク戦争を早く終結しないと他の政策が進められないというポールの意見には説得力がある。 

不法移民対策は国境での取締強化で一致しているが1200万人もいる不法滞在の取扱、具対策となると難しい。 唯一ジュリアニ元市長がNYで実施・経験しているが対処療法で根本的解決策とは言いがたい。 
共和党から大統領が出ればメキシコ国境は緊張するだろうしラテン系住民の反発は強まるだろう。

1時間半のディベートの内容は論点を絞っていたのでわかりやすく内容の濃いものになった。
各候補のCharacterもかなり反映されていた。 激しい言葉のExchangeもあったけれど全般に大人のディベートであって民主党のディベートよりも程度が高い。
〈民主党のディベートは精神論・抽象論になりがちで論議は常にUpper Class vs. Middle/Lower Classの構図がベースにあり大統領を選ぶ選挙としては次元が低い〉

私の採点では総合点ではやはりハッカビーが一番良い。 バランスがとれていて明るく生き生きしている。
全国Pollで一位のジュリアニの影が薄い。 〈全国Pollは予備選ではあまり意味がないそうだが〉 マッケーンは最も真面目で現実的な政治家だがカリスマ性に欠け一般大衆にどこまで通じるか。今日のディベートでは良くもなし悪くもなし。 ロムニーはやはりビジネス向きで政治家としての資質に疑問。 Likeable Personとは云いがたい。 トンプソンはカウンターパンチばかりで自分の主張がよくわからない。 ポールは72歳、年を感じさせるが今日は大ホームラン。でも打率は非常に低いので上位打順出場は難しいだろう。

1. 放映終了直後の視聴者の「ディベートでの勝者は誰か」のPollの結果が面白い。
今まで全国的にもアイオワ/ニューハンプシャーでも4%を越えなかったロン・ポールが35%でトップ、以下トンプソン、ハッカビーマッケーンと続いているのでディベートでの勝者はホームランを打ったポールということになる。
2. Fox Newsがディベートの地元S.カロライナの有権者から選出しスタジオに集まった25人の評価は圧倒的にトンプソン(68%)が勝利〈ストレートのカウンターパンチが効いた〉
3. 10日の全国版Poll(CNN)ではマッケーン(34%)ハッカビー(21%)ジュリアニ(18%)ロムニー(14%)
一ヶ月前のPollでは13%だったマッケーンがニューハンプシャーでの勝利で勢いを得て一気に全国版に躍り出た。 

次回予備選(1月15日)のミシガン州だけのPoll(NY Times)では
共和党: ロムニー(21%)ハッカビー(19%)ジュリアニ(12%)マッケーン(10%)
民主党: クリントン(49%)オバマ(19%)エドワード(15%)
こんなに数字が跳んでは大メディアも間違うはずだ。 ニューハンプシャーの予備選では各メディアのPoll〈民主党に関して〉と選挙結果が大幅に違ったがこのことについて充分な説明はしていない。
あまりPollに振り回されないようにしよう。

2008年1月9日水曜日

米大統領選挙〈その4)  ニューハンプシャー予備選

New Hampshire Primary

ニューハンプシャーはこれといった産業はなくスキーリゾートと秋の紅葉が有名で観光と小規模な農業や牧畜など自給自足的な個人経営が主体の地味な州である。 
あくまで個人的な感想だがこのような田舎であっても生活水準は高く(1人あたり所得全米7位)生活スタイルは保守的でも思想的にはリベラルで環境問題や教育に対して関心も高い。 
ニューヨークやボストンなど大都会に住む人にとってはメイン州・ニューハンプシャー州・バーモント州の自然にめぐまれた環境の中で自由に生活することはある種の憧れであり別荘を持っている人も多い。
1981年の映画“On Golden Pond”-黄昏〈ヘンリー・フォンダ、キャサリーン・ヘップバーン、ジェーン・フォンダ〉はニューハンプシャーのSquam Lakeで撮影された。
1987年の映画“Baby Boom”はNYのキャリアウーマン(ダイアン・キートン)がバーモントの自然な生活にめざめる話。 2つの映画の映像とストリーを思い出せばこの地方の景色と生活が想像できると思う。

ニューハンプシャーの予備選では民主党・共和党いずれにも属さない独立の人(組織に束縛されない自由人)が45%を占め〈Caucus とは異なり〉ここでは両党どちらにでも投票できるから両党の候補者選びと共に独立票が民主党・共和党どちらに流れるかが大いに注目されるところである。

マッケーン候補はキャンペーンの当初からニューハンプシャーに焦点を絞り環境問題を特別にクローズアップして「地球温暖化防止」「脱石油・ニ酸化炭素排出課税」「原子力発電推進」など具体策をあげてアッピールしている。 このような背景を理解すればアイオワで4位だったマッケーン候補が1位になる可能性が高いだろう。 
今年はアメリカの現状打破を命題として各候補が“Change”を合言葉にしている。 ”Change”が選挙の大きな表題とすればWashingtonのEstablishmentはイメージ的にはマイナスだ。
Voterは党派を超えて新人候補に支持的であるように思える。

予備選がニューヨーク州やカリフォルニア州のようなBig Statesと同時に行われるのではなくアイオワ(1%)やニューハンプシャー(0.3%)のような小さな州で始まりここでの動きが全米をリードする流れを作るところに大きな意味がある。

民主党オバマ候補はアイオワで予期せぬ流れを作りあげてしまった。 ニューハンプシャーでの選挙前日のPollではオバマ(39%)クリントン(29%)まで差が開いた。 勢いとは恐ろしいものである。

午後8時に投票が締め切られ逐次開票結果がスクリーンの掲示板に表示される。
直前のPollからして共和党・マッケーン候補と民主党オバマ候補がトップでリードをキープするものと思っていた。
共和党は予想どおり初めからマッケーンが5-6%の差をつけて開票が進み30分そこそこで当確のサインがついた。 独立票の大多数を集めた楽勝といってよい。
一方民主党は開票直後から“???”戸惑いが走った。 クリントンがトップを走ってオバマがなかなか追いつかない。 TVキャスターの言葉はなんとなく様子を見みながら解説待ちといった雰囲気である。 開票開始から1時間以上、開票率35%を越えてもクリントン得票率(39-40%)オバマ(36-38%)と変わらない。ここまで来てもどのメディアも「当確」のアナウンスをしない。 理由はHanover地区(Dartmouth University)とDurham地区〈University of New Hampshire〉は開票が遅れておりこの地区のマジョリティがオバマ支持と目されているのでなかなか断定できないと云うのである
私は「当確」発表が遅れたのはメディアがPollに拘ったからだと思う。 最終段階ではPollに近い数字が出てくるものと信じていたに違いない。 アメリカはPollと分析技術に優れておりまた誰もがこれを尊重する傾向がある。 したがってPollが結果とこれほど違うとは誰も想像できなかった。

開票結果は
共和党: マッケーン(37%) ロムニー(32%) ハッカビー(11%)
マッケーンは予想どおり勝利したが共和党主流ではなく資金もタイトだからこれから中間・リベラル派を何処まで結集できるかが鍵。 ロムニーはカムバックが難しくなった。 ハッカビーはこれからが正念場。 出遅れた本命・元NY市長ジュリアニが1月19日のサウスカロライナ州の予備選から本格登場。 今後はマッケーン、ハッカビー、ジュリアニの三つ巴レースになると思われる。

民主党: クリントン(39%) オバマ(36%) エドワード(17%)
クリントンの勝利は女性票の引き戻しといわれている。 前回アイオワでは女性票をオバマにさらわれてしまったのでニューハンプシャーでは徹底的なローラー作戦で女性票を掘り起こしクリントン陣営としては本来あるべき姿である女性票で優位を獲得する作戦が成功した。

もう一つ面白い話がある “ヒラリーが見せた涙”〈連日この映像が放映されている〉 
裏話ではなく選挙前日のカフェミーティングの途中だった。 
聴衆の一人が質問した「How do you keep up so wonderful?」
ヒラリー「私が心から正しいことをしていると信じなければ容易いことではありません。
私はこの国がとても多くのOpportunity を持っていると信じているのでこれを後ろ向きにすることは出来ません。・・誰かが方向を変えなければ!・・政治は誰かが上がり誰かが下がるゲームという人がいますが、政治は国そのものであり子どもたちの将来であるのです。・・・」 ヒラリーは途中で声を詰まらせ涙をみせた。 本来涙を見せるような場ではないにも拘わらず彼女はEmotionalになった。
ヒラリーのResponseに対し意見は二つに分かれた。 初めて“人間らしさを見せた”と好意的に見る見方と“演技のうそ涙”と懐疑的な見方である。 Video Newsを5回ほど繰り返し見た。今まで言葉が先行していた彼女が始めて心から信条を語ったと思った。 今までの選挙演説にはない心のうちを語ったものと受け止めた。 

私はオバマが予想に反して2位にとどまった原因は共和党・マッケーン候補が45%を占める独立票を取りすぎたからだと思っている。 独立票は共和党・民主党どちらに投票してもよいのだが共和党ならマッケーンに投じられ民主党ならオバマに投じられたはずだ。 もしマッケーン候補がロムニーと同じ様な得票数ならおそらくオバマはクリントンに勝っていたかもしれない。 2-3%の差で2位につけたことは健闘といってよい。
民主党はクリントンvs.オバマのマッチレースの構図ができあがった。


ニューハンプシャーの予備選は両党同時に行われるから実際には関係のない両党の選挙がお互いに微妙に影響しあうのは避けられない。 まず党内の対立候補に勝利しなければならないのは当然であるが反対党の候補の中で誰が有利なのか?誰が選ばれるのかを意識しながら〈演説にも含めながら〉選挙戦を進めなければならないのは観戦者にとっては面白い。

Feb. 5のSuper Tuesday (ニューヨーク州、カリフォルニア州を含む20州の予備選挙が行われそれで大勢が決する)まで一ヶ月、下記のスケデュールでPrimary/Caucusは続く。

Jan. 15 Michigan Primary   Democrats & Republican
Jan. 19 Nevada Caucus   Democrats & Republican
Jan. 19 S. Carolina Primary  Republican only
Jan. 26 S. Carolina Primary Democrats only
Jan. 29 Florida Primary   Democrats & Republican
Feb. 1 Maine Caucus    Democrats & Republican

予備選のことは選挙方式・ルールを始めまだまだわからないことが多い。 上記スケデュールでも判るように両党同時予備選のところばかりではないようだ。 実は1月8日のニューハンプシャーの予備選が第2回の予備選と思っていたが1月5日にワイオミング州で共和党のdelegate selectionがあってロムニー候補が指名を獲得していたことを一昨日知った。
いずれにせよ予備選は両党同日同じ州でやるのに特に意味がある。 選挙は始まったばかりで予備選だけでもまだまだ波乱があるような気がする。 




2008年1月4日金曜日

米大統領選挙(その3)  アイオワ予備選

Viewing Iowa Caucus

昨夜(1月3日)は夜7時から12時までCNNの選挙特別番組(Iowa Caucusの開票プロセス)をぶっ続けでみた。 アイオワについて殆ど何も知らない。 これからも知る機会は少ないと思う。
ちなみにアイオワ州のHPで調べてみると人口300万弱(白人の比率 ‐ 95%)、豚肉・とうもろこし・鶏卵の生産が全米第1位、大豆・牛肉の生産が全米第2位ということで代表的なアメリカの農業地帯であることがわかる。 

4年に一度この州から大統領選の公式戦が始まるので注目されるだけと思っていたが民主党の独特の選挙方式と選挙民のCaucusに対すると情熱が選挙第1ラウンドの熱気を生みだしている。
民主党の候補者選びは単なる得票数のカウントではなく〈投票用紙を使わない〉各選挙区の候補者のもとに集まった支持者の数を管理者が数えて選挙管理本部に報告する。  得票比率が15%に至らない候補の票は残った候補者に再投票されるシステムだから時間がかかる。 特に今回のように上位候補者が競っている場合は第一回のカウントだけでは余談を許さない。
民主党候補の中でクリントン上院議員〈元大統領夫人〉、エドワード元上院議員、バイデン上院議員(外交委員長)、ロバートソンニューメキシコ州知事〈元国連大使〉はよくメディアにも登場するから以前から知っていたがオバマ上院議員は今回選挙が始まるまでは知らなかった。
共和党候補の中でジュリアニ元NY市長、マッケイン上院議員、トンプソン上院議員は知っていたがハッカビー元アーカンソウ州知事は知らなかった。

さて選挙の結果は
民主党 1.オバマ(38%) 2.エドワード(30%) 3.クリントン(29%)
共和党 1.ハッカビー(34%) 2.ロムニー (25%) 3.トンプソン(14%)
接線が予想されていたにもかかわらず共和党はハッカビー候補、民主党はオバマ候補、両党とも新人の圧勝だった。 選挙の分析結果を見ればなお面白い。

民主党のクリントンがオバマとエドワードの後塵を拝したのはSecond Roundの投票を殆ど取れなかったからだ。 クリントンの支持者は以前から確定していて資金と時間を注ぎ込んだににもかかわらず新たに支持者を獲得できなかった。 調査では女性の70%がクリントンを支持していない。 それに夫のビル・クリントン元大統領を含めて“クリントン嫌い”がかなり多いといわれていたがこれを証明した。 11月以降ヒラリー・クリントンの支持率急落をみてビル・クリントンが頻繁に表に顔を出すようになったが逆効果だった。
ヒラリー・クリントンは聡明でタフで政治の経験も積んでいる。 大統領になる資格は充分備えているように思う。 しかし彼女の演説には「私が大統領になったら・・・」「私は・・・するために大統領になる」「私が大統領になるための経験を・・・・」などと大統領になることが目的のように聴こえるので共感が沸いてこない。 演壇に並んでいる顔ぶれも夫ビル・クリントン、娘のチェルシー、オルブライト元国務長官、その他目慣れた取り巻きが並んでいて全く新鮮味が感じられなかった。 標語の“Clinton for Change” と矛盾していると云いたい。Caucus終了後の演説でも強気一辺倒で強がりとしか見えなかった。 いずれにせよ3位に終わったことはショックにちがいない。

一方オバマ議員は若年層の57%、女性の58%を獲得して新しい風のマジョリティを吸収した。 主要都市部で1位になったばかりでなく宗教色〈キリスト教〉が最も強く99%白人社会で保守的と見られている西北部のSeveral Countiesで1位を獲得したのはもはや時代が変わったとしか言いようがない。 私はオバマ議員は黒人だからこんな保守色の強い田舎の州ではとても勝てないと初めから決め込んでいたのが恥ずかしい。 オバマ候補は始めから人種の壁を意識しない候補でマイノリティを当てにしていないところが受け入れられた原因かも知れない。
彼は勝利宣言で「“評論家は今日のような日は決して来ない。この国が二つに分かれあまりにも幻滅に満ちているので共通の目的の元にまとまることは難しい”と云っていたのにここであなた方が今夜歴史的瞬間にそれを実現してしまった。・・・ これがすべての始まりだ!」 演説は党派を超えた格調高いもので好感と期待が持てた。 TVキャスターや選挙解説者も今までで最も良い演説だったと賞賛していた。 民主党サイドでの第1Roundとはいえ本当に歴史的瞬間かもしれない。
共和党の勝利者ハッカビーの演説もスムーズで自身に満ちていた。 声もよく乗りがよい。
ヒラリーの演説の直後だったので「私は・・・」ではなく「我々が・・・あなた方と共に・・・」
を強調していたように聞こえたのは気のせいだろうか。

Iowa Caucusは2131の小さな選挙区(Precinct)からなる。50人100人単位の小さなコミュニティが選挙区の単位だからこの日は親しい隣近所が集まって半日政治談議をして最後にコンテストの投票をするようなものだ。 獲得票が15%に満たなければその候補に投票した人たちは自分の候補はあきらめて再投票しなければならない。 15%以上を獲得した候補者のグループは彼等を自分のグループに引き入れるための勧誘をして最終自分たちの候補を決めるというユニークな選挙制度である。 自分の選んだ候補に投票する第一回の機会と他人の意見を聴きながら第二の候補に投票できるので投票が無駄にならず再大公約数がさ算出されるのよく考えられた選挙方法である。 

彼らが選んだのはSuper Womanで資金力も豊富なヒラリー・クリントンでもなく第一ラウンド・アイオワに莫大な資金を注ぎ込んだミット・ロムニーでもなかった。
アイオワは田舎に違いないがこの州の人々はなんと素晴らしい政治のモデルと政治意識を持っていることか。 そして時代を先取りして新鮮な代表を選んだ。 今回のIowa Caucusをみてアメリカが選挙のたびにこの小さな田舎の州に注目する理由がわかった。 
久しぶりに新しい風が吹いたようですがすがしい気分になった

2008年1月2日水曜日

米大統領選挙(その2)  予備選スタート

Iowa Caucus を控えて


アメリカの正月はクリスマスホリデーのおまけみたいなものだから日本の正月のようにゆっくり休んで新年の英気を養うといった雰囲気はない。 しかし今年はなんと言っても大統領選挙の年であり1月3日にはIowaで予備選が始まる。 いまや袋小路に入ってしまって先行き暗いアメリカを何とか変えることは出来ないか?変えることが出来るのは誰か? そんな国民の期待が凝縮されているのが今回の選挙である。 
好き嫌いは別としてアメリカは世界のポリスマンでありリーダーだから選挙の結果は大げさに言えば地球の将来に影響する。 私はアメリカ国民でなく投票権がないにもかかわらず大いなる興味を持ってこの選挙を見守っているのは間接的には日本や私個人にも影響があるとおもうからだ。
 
各党の候補者選びはホームストレッチに入った。 民主・共和両党とも予想外のダンゴレースでいっそう熱気を帯びてきた。 民主党は初の女性候補か黒人候補になる可能性が高い。 共和党はダークホースだった保守系右派のハッカビー・アーカンソウ州知事が頭一つリードしている。 いずれにせよ本選に入る前から話題の多い選挙といえよう。
私は個人的に支持する候補者はないが国内外にアメリカの顔として知られた人より実力が未知数でも全く新しい顔の方がアメリカはリフレッシュ且つリノベート出来るとおもう。

私が大統領選挙に興味を持つもう一つの理由は民主主義の基本と理想をこの大統領選挙に見るからでありその過程で各候補者の演説から数多くの示唆に富んだ提言を見出すからである。
またすべての候補が初めから党の候補に選ばれる可能性や確信をもって選挙に臨んでいるとは思えない。 一部の候補は選挙を利用して国民に問題点を提起しかつ国民を啓蒙しようと試みているようにみえる。
その一人がマッケーン(John McCain)上院議員である。 正月1日にも彼は雪の舞うIowaの集会で原子力発電の重要性を説いていた。 
“――地球の温暖化防止は待ったなしの状態です。 残念ながら我アメリカは未だに何もやっていないに等しい状況であります。 温暖化防止にはまず化石燃料の使用を極小化しなければならないがわが国はエネルギーの殆どを化石燃料に頼っており世界最大の石油輸入国です。 しかもこれは毎日何十億ドルもの膨大な金額がアラブ産油国に流れていることを意味しています。 石油に依存している限り貴方のポケットから貴方のお金がどんどんアラブの懐に流れていく。 しかもこのままでは毎年金額は増えてゆくでしょう。 貴方のためにもアメリカのためにも地球のためにも「脱石油」は必要なのです。 それには今のところ原子力発電しかありません。アメリカはこの30年一度も事故を起こしたことはありません。 フランスは全体のエネルギー供給の80%を原子力発電で賄っています。 原子力発電による廃棄物処理の問題も現場で行うという方針と対策が出来上がりました。 是非原子力発電を進めたいと思います。”

なんと説得力のある論理と演説であろうか! 目から鱗とはこのことではないかと思った。
ジョン・マッケーン議員は過去2回現ブッシュ大統領と共和党候補の座を争ったベテランである。 共和党良識派の最右翼と目され現政府のネオコングループとは一線を画す。 このマッケーン候補〈共和党〉を民主党の重鎮・リーバーマン上院議員が支持すると宣言し応援に駆けつけた。 リーバーマンは2000年に現ブッシュ大統領と大統領選挙を争ったゴア元副大統領の副大統領候補だった人である。 2人は親しい友人で所属党は異なっても信条は似ていると言われる。
アメリカでは個人の信条が党よりも優先するといわれる一例であると共に政治社会の成熟と政治家の余裕を示す証拠だろう。
日本なら民主党の管さんが自民党の総裁選で麻生さん支持を表明し〈もし信条が同じなら〉応援するようなもので日本ならありえない話である。

TVの報道は9月から11月にかけての各党ディベートから12月以降アイオワのタウンミーティングへと切替わった。
共和党は選挙民による一般的予備選挙(Primary)だが 民主党は党員選挙(Iowa Caucus党員集会での選挙システムはかなりややこしい。)で党員の個別引き抜き合戦みたいなもので直接対話よって選挙民を獲得してゆく。 少人数のグループとの対話であるから“生の声”が聴こえ“本当の顔”が至近距離で見えるので支持を自分の判断で決めやすい。
日本の国政選挙では名前ばかりで顔も見えず政策や信条を身近に聞いて確かめる機会も少ないので自分の一票の重みを実感できないでいるがIowa Caucusのような選挙方式であれば自分の票の重みを実感できるのではないかと思う。
いずれにせよ民主主義の基本は対話とディベートだ。 対話は一方的では成り立たずディベートでは論理をベースに議論しないと話にならない。 この点アメリカ国民は子供の頃からSpeakerとしてもListenerとしてもよく訓練されておりルールが身についているので限られた時間内に内容のある討議ができる。 多民族、多宗教の人々が一つの国家としてまとまっていくには対話を通じてコンセンサスを形成していく以外に方法はないのである。 

大統領選挙は個人的立候補宣言からディベート・予備選を通じての候補者選び、本選の選挙まで約2年にわたる長丁場だ。これを戦い抜くには体力はもとより誹謗中傷に耐えうる強力な精神力また難しい質問をうまくかわして自己主張に切り替える頭脳とテクニックに長けていなければとても戦い抜くことは出来ない。 たとえ途中でドロップしたとしてもこれまで運動を続けてきた候補者には尊敬と拍手を送りたい。

4年に一回繰り返されるこの一大政治イベントの費用が莫大な金額になることは各候補者が集めた選挙資金の大きさによってわかる。 選挙戦を通じて国家の直面する問題点を洗い出し徹底的にオープンに国民の前で議論することが多民族国家の大国を統合維持していくためにどれほど役に立っていることか。 民主主義を維持するための費用は決して安くないが無駄な費用ではない。 

ブッシュ大統領がアメリカの民主主義を他の世界に押し付けるのは間違いだと思う。しかし一方では世界〈多民族・多宗教〉が平和共存できる理想とモデルをアメリカ自身が演出しているかに見えるがこれは非現実的な夢に過ぎないのだろうか。