2008年6月16日月曜日

米大統領選挙(27)アメリカの保守主義

アメリカの保守主義 (ブッシュが2回も大統領に選ばれた理由) 

民主党の大統領候補が事実上オバマに決定し大統領選挙は両党の党大会を待たずに本選モードに入っている。 しかしいまひとつ共和党・マッケーンと民主党・オバマの対立点がはっきりしない。 両党とも政治の焦点が対外的にはイラク撤退、国内的には不況対策と医療問題と絞られていて現状認識は同じで対処の仕方が違うだけ。
だから今回の選挙は政策よりも個人的な信条とか人格が投票のキーとなる可能性が大いにある。

今回の大統領選挙のテーマは両党とも当初から“Change”であった。何がChangeの対象かといえばまず8年間続いた“ブッシュ政権”だ。
民主党は勿論のこと共和党までも予備選の最初のころは“Government is Broken”とキャンペーンを展開していた。
ブッシュの支持率が史上最低で実際にブッシュ政権になってからろくなことはない。
-京都議定書の批准には積極的に反対した。
-誤った情報の元にイラク戦争を始め収拾がつかなくなっている。
-中東を混乱に貶めモスリム対キリスト教の対立を先鋭化させた。
-巨大な戦費の支出でアメリカの財政が疲弊、ドルの信用が弱まっている。
-石油安定供給を崩し石油価格の異常な高騰を招いた。 
(このコストインフレは世界中に波及し人々の生活を脅かすだろう。 本格的インフレと価格調整はこれからだ)
-国の基礎になるインフラの整備、保守および教育投資に資金が回らず体力が弱まっている
-唯一のスーパーパワーであったアメリカの力を一気に弱め世界の秩序を混乱させた。

ブッシュ大統領は高い見識や教養を感じさせることもなく演説はもっとも下手な部類に入る。
ではなぜこんな彼が1回ならず2回も大統領に選ばれたのであろうか。
この問題の背景にはアメリカのConservatism《保守主義》がある。

私がこの問題に注目したきっかけは1月初めの共和党のディベートでミット・ロムニーが“自分はMost Conservativeでマイク・ハッカビーはliberalである”と非難したことに始まる。 ハッカビーが猛烈に反論したがそのときにアメリカの保守と革新は日本で言う保守や革新とは意味合いが違うことに気がついた。

アメリカ社会の背景にあって日本にはまったくないのが宗教問題で“キリスト教の倫理”に関わる問題である。 平たく言えば妊娠中絶賛成か反対かということだ。 候補者は立候補する際に自分の立場をはっきりさせるしディベートでも基本的な問題として再三確認を求められる。 

アメリカの保守主義者(Conservatives)とはキリスト教の倫理をベースとして伝統的価値を重んじ思想的には自由主義、政治的には"小さな政府"を標榜する人々である。 政治的区分けでいえば共和党がこれに当てはまるがIndependentsでも民主党の中にもこのようなSocial Conservativesは数多くいる。
Social Conservativesという範疇で捉えればアメリカの国民過半数はConservativesだと思う。
ブッシュ政権の中核をなすいわゆるネオコン(Neo-conservatism)は(Political or Philosophical) Conservatism の右派に属する人々で「アメリカは民主主義を世界に広げることを国家としての目標にすべきで、世界を民主化するためにアメリカの圧倒的な軍事力を活用すべきだ」と主張する。 ブッシュ大統領はこれに感化されてイラク侵攻に踏み切ったとされている。
ブッシュ大統領は根っからの保守主義者でもなく自由主義者でもない。 キリスト教の倫理に忠実な典型的南部のお人よしだ。 せいぜいテキサスのMidland (ブッシュ出身地West Texasの田舎町)の市長ぐらいが一番よく似合う平均的なアメリカ人と思うが名門の長男かつ大統領の息子ということでネオコンに担ぎだされ取り巻きのチェイニー副大統領やラズムフェルド元国防長官に引きずりまわされる能天気な大統領になってしまった。 

共和党のみならずアメリカ国民のMajorityはキリスト教をベースとして
家族道徳などを強調する保守的な価値観、倫理観を持つSocial Conservativesであるから2000年の大統領選挙ではモラル面で乱れたクリントンのアンチテーゼとして自分たちと同じ価値観を持つブッシュを大統領に選んだのである。 2004
年に再選されたのは対イラク戦争の途中だったからだ。 国家の安全が脅かされている時期に大統領がそれを理由に支持を得るというのはよくあることである。

共和党の中で最も右派に位置するネオコングループはごく最近までジョン・マッケーンの支持に抵抗していたがマッケーンが指名をほぼ確実にしたので今後は党団結のためしぶしぶ協力せざるを得ないというのが実情だ。 だから共和党が一枚板というわけではない。 

民主党も最後までオバマとクリントンが激しいデッドヒートを展開して二つに割れた党を修復するには時間がかかる。 だから中間層や独立派がマッケーンとオバマをどのように評価するのかが決定要因となるだろう。