2008年12月31日水曜日

2008年 締めくくり

今年は暗いニュースばかりで終わろうとしている。 
1.失業率は6.5%で1994年以来の最高、これかまだ増えつづけ7.5%まで行くと予想されている。
2.住宅価格の下落率は前年比13.2%で(主要20都市では18%)1939年の大恐慌以来の記録である。
3.12月の車の販売台数はGM,Toyota,Fordとも30%以上落ち込みクライスラーにいたっては53%も落ちている。 
3.Consumers Confidenceは史上最低の38まで落ち込んだ。

今まで何度も不況-深刻な経済の落ち込み-はあったけれども今回のようにすべての経済社会でしかも世界的規模で崩壊を始めたのは初めてのことだ。 

原因はなにか? 失業した人や資産を失ってしまった人でなくとも犯人探しをしたくなる。

今回の経済危機は米国のサブプライムローン破綻が引金であった。 この金融事件の仕掛けと仕組みは充分論議されているにもかかわらずサブプライムローンの関係者は誰もとがめられていない。 理由は国内住宅金融システムに乗っかって顧客にリスクのある融資を実行しただけだから。 その後リスクの高い住宅金融債権を(ババであることを知っていたとしても)大手金融機関に転売したことも通常の取引の範囲内である。
“ババ”は大手金融機関の手に移ったが大手金融機関は他の金融商品に組み入れて世界中の金融機関に売りさばいた。 この商品はMoodysやStandard & Poorsなどの格付け会社が信用度の高い格付けをしていたから世界中の金融機関は利回りの良いこの商品に飛びついたわけだ。 海外の金融機関は別としてアメリカ国内の当事者はいずれも高いリスクは承知していたはずである。

私は当初サブプライムローンの不良債権総額が大きいからといってなぜ世界中の巨大金融機関が経営危機に落ち込むほどのインパクトになるのか理解できなかった。 おそらく投資銀行や大銀行のトップや政府関係者でさえこのような状況になるとは誰も思っていなかっただろう。

私は後半になってこの金融危機の原因は膨張した“レバレッジ”取引にあったとの結論に達した。 
レバレッジを効かせるとは、「テコの原理を効かせる」ということ。例えば、株の取引の場合には信用取引を行えば自己資金の3倍程度まで株を買うことができる。
この場合は当然ながらリスクも3倍になる。個人の場合は銀行・証券会社を通じて取引を行うので損の場合は制度的にストップかかかる。 銀行には巨大な資金がある。しかも誰の規制も受けずに自己取引が出来るから10倍も20倍ものレバレッジを効かせることができるのだ。 成功すれば巨大な収益が見込まれる。 結果として巨額のボーナスが待っている。 これがいわゆる成功報酬型給与制度であり金融機関のエグゼクティブやトレーダーをクレージーにする原因だ。 しかも一度成功して普通の人が一生かかって獲得するボーナス金額を一期で手にするわけだから一度やったら止められない。 失敗しても自分の金ではないので自分の懐は痛まない。 
取引金額も桁違いなら手にする報酬も桁違い。 彼らにとってはいくら金額が張ろうとも個人的にはリスクフリーなのである。 毎年ウォールストリートのボーナスの平均が00万ドルと伝えられ世間の羨望の的になっていた。 しかしエグゼクティブが0000万ドル、20代30代のトレーダーでさえ50万ドル-100万ドルのボーナスが支給されるとすればそれだけの収益がなければならない。 今年の原油マーケットのように一生に一度の大相場に出くわしたときならいざ知らず毎年莫大な収益を上げるための打出の小槌があろうはずがない。 いや打出の小槌はあった。 それがレバレッジ取引である。 時には打出の小槌を効かせるために人為的な情報操作したかもしれない。 公私にわたり金銭感覚は麻痺し取引は雪だるま式に拡大する。 “Go for Break” 行き着くところまで行かないと止まらない。
ヘッジファンドのBernard Madoff(元Nasdaq会長)が$50Billion(4.5兆円)の赤字を出して詐欺容疑で逮捕された。多くの億万長者、有名人、金融機関が巨額の被害を被った。 今回の金融危機の象徴的な事件である。

成功報酬型の報酬制度が企業のリスク管理と株主・従業員・社会一般への責任を忘れ短期の収益確保のために暴走する原因になったと思っている。 ウオールストリートでは銀行、証券,保険を問わず全社が同じパターンに落ちってしまった。
企業が取引先だけでなく直接的にも間接的にも社会に大きくかかわっていることを知らされた年でもあった。 
あらためて企業の社会的責任を考えなければならない時期だと思う。

2008年12月29日月曜日

不況と差押え救済策ー超低金利をどう家計に生かすか

未曾有の金融危機、大不況に対処するためアメリカは超低金利政策(0.0-0.5%)を取らざるをなくなった。 プライムレートは3.25%に下がりそれに対応してモートゲージ・ローンレート(住宅ローン・レート)も5%前後まで下がっている。 
金融危機の発端であるサブプライムローンは初期の一定期間に超低金利で貸付けその後プライムレートにプレミアムを上乗せしスライドスライドする仕組だからプライムレートが上がれば数年後には毎月のローン返済額がダブルになってもおかしくない。 将来のリスクに目をつむりとりあえず夢のマイホームを手に入れた人々にとっては数年経ったら支払不能・銀行差押という悪夢が待っていた。 
このシステム(変動金利住宅ローン)自体は目新しいものではなくマーケットが正常であった時から存在していた。 
一般的にローンの種類はFixed Rate(30年、15年) Adjustable Rate (10/1, 7/1 ….) Interest Only (10/1, 7/1….) 3種類ありPoint(先払い金利) (0,1,2)によってレートが異なる。 (Chase Mortgageの例をとれば33種類のローンがある)
アメリカは労働市場が柔軟で転職は常識である。(したがって転職により転居する場合が多い)また齢が若ければ5年で所得が2倍になることは良くあることだ。
また結婚して子供がいなければ2LDKで十分だろうが子供が出来れば大きな家に引っ越すのは当然の流れである。 したがって自分の人生設計にそって家の大きさやロケーションを変更してゆくのが一般的である。 自分の年齢、家族構成、将来の所得Upの見通しによって最も適切なローンを選択できる。 多様なローンの選択が可能なことは消費者にとっては良いことだが目先の支払に惑わされず支払いの仕組みと自分の支払い能力をよく理解してローンを選択しなければならない。

変動金利の返済方法を選んだために金利が大幅に上がって支払いに苦しんでいる人にとっては超低金利で再融資が受けられれば正常な生活をとりもどすことが出来る。 こんな人はしばしばクレジットカードも限度いっぱい使って多額の負債を抱えているものだ。 銀行はこのような人に対してDebts Consolidation と称して次のようなリファイナンスをオファーしている。

例として30万ドル(金利8%)の住宅ローンを抱え2万ドルのクレジットカード負債に12%の金利を支払っているとしよう。 金利支払だけの単純な計算をすると
現状(住宅ローン支払い月$2,200、 クレジットカード月$200)月額支払合計 $2,400 となる。 両方の負債をまとめて合計金額$320,000を新規低利融資(5%) に切り替えた場合、毎月の支払額 $1718となり$682もセーブできる。 これが今全米で問題となっている銀行差押(Foreclosure)を回避する方法として銀行が推奨している。

これは何も差押に直面している人にのみ適用されるわけでもない。
私にも毎日のように銀行から再融資のオファーが入ってくるので一応リファイナンスを考えてみることにした。 既存の顧客に再融資するのは銀行にとって調査の手間がかからず顧客にとっても手続が非常に簡単で話が進みやすい。
話が早いのは現在保有している住宅(不動産)が融資額を十分上回る価値を保持していることが前提である。

私の場合は住宅ローンの残りのリファイナンス、リース車の買取、キッチンのUpgradeを含めて12万ドルを5%でリファイナンスすると現行の月ごとの支払に比べて$300ほど少なくなる計算になった。 通常リースや簡単な家屋の改造には長期の融資は受けられないが今回のDebts Consolidationの特別オファーを利用すれば車もキッチンのリノベーションの費用も30年(360ヶ月)に薄めて支払いが可能だからである。 しかも低利で通常リファイナンスにかかる費用($2,000-$3,000)が$400ぐらいですむ。

車やキッチン・リノベーションには前述の30年Fix RateでのローンでなくHome Equity Line of Creditといって一定の融資枠内でローンを受ければそのバランスに対して金利のみの支払うローンを組むことも出来る。 ローン本体に対する支払はいつでも余裕のあるときに任意で支払うことが出来る。 まとまった金額の支払のための資金捻出のため低迷したマーケットで株や投資信託を売らなくてすむ便利な取引である。 金利はプライムレート+ 0.5% (or
More) だから現状では非常に安い。 
一週間前にChaseの支店を訪ねてRefinanceとHome Equity Line of Creditの説明を聴いた。 昨日必要書類(2年間の確定申告書、所得明細、銀行残高)を携えてMortgage Officerに合いローンの正式申し込みをした。 後はローンレートを確定し正式書類にサインするだけである。 

Mortgage OfficerはRickといい50台後半の落着いた紳士であった。 ローンの手続は20分ほどで終わり後は一般的なアメリカの経済の話をした。 
銀行家だから企業の内部事情や個人の懐具合を良く知っている。 ビッグ3の経営危機はローカルにも影響大でまずローカルの車のディーラーがつぶれそうだという。 全国的な規模の大手リーテーラーもクリスマスセールがダウン、しかもブランド物も含めて全商品50%Offでは利益が出ない。来年3月までに数件潰れるとみている。 個人の家計はもともと目いっぱいだったものがクレジットカード金利がいっせいに上がったので支払延滞が急激に増えた。 
Debts Consolidationで負債を先送りしても消費パターンを縮小しない限り家計の健全化は無理だという。 失業増と個人の消費減で構造的にはデフレ、ドルの信用不安から急激なドル安に転じているが原料から製品に至るまで多くを輸入品に頼っているアメリカはコストインフレが避けられない。 両方がどのように影響するかは予測は難しいがどちらもいい話ではない。 
私はアメリカは切替が早いから不況脱出も3年ぐらいで可能かと考えていたが彼は現状は今までの不況とはちがって非常に深刻で潮目が変わるには4-5年かかるといっている。
経済のグローバル化が進んでアメリカの健康度がすぐに世界に波及してしまうのでアメリカ経済が早く健康を回復しなければならないのだが彼の話を聴いていると回復にはまだまだ時間がかかるような気がしてきた。 オバマ大統領には一段と大きな負担がかかっている。 

2008年12月20日土曜日

ビッグ3緊急融資

12月19日にブッシュ大統領はビッグ3へ174億ドルの緊急融資を行うことを発表した。勿論条件はついているがこれは2週間前に下院で可決された救済法案とほぼ同じで今回の大統領の決断は筋書き通りの出来レースみたいなものだ。
上院が同法案を否決したのは共和党が再生のキイはUAWの譲歩にありとみてUAWが大幅な歩み寄りを見せない限りビッグ3は救済できないとの強力なメッセージであった。 現実論としてはすべての人がびっぐ3は潰せないと思っているから最後にブッシュ大統領が出てくることは見え見え、とりあえずはつなぎ融資が出来て良かったのではないか。 しかし誰もこれで問題が解決できるとは思っていない。 融資は短期であり単に問題が先送りされただけである。
問題は単にビッグ3・自動車産業だけの問題ではないから政府、議会、会社、労組一体となって再建に取り組んでほしいものである。 

2008年12月18日木曜日

迷走するビッグ3救済策

ビッグ3の救済策が決定しないで迷走している中で逐次新しいニュースが入ってくる。
12月17日 クライスラーは全工場の一ヶ月の創業停止を決定した。
12月17日 GMとクライスラーはBail Outを容易にするため一旦白紙に戻した合併を再検討している。(GMは否定)
12月18日 ブッシュ政権はGM, クライスラーの”Ordinary Bankruptcy”-管理倒産-を検討中と報じられた。  管理倒産というのは倒産する会社が資産や組織がばらばらになって再生不可能にならないよう政府の管理下で倒産を図ろうとするものである。 

これは一種のUAW対策ともいえるだろう。 なぜならUAWの大幅労務費カットを実現しなければ再生は無理だけど倒産をすれば対組合政策は初めからやり直しが出来るからだ。

事態が切迫しているにもかかわらず救済策が一向に進展しないのは問題が大きくかつ複雑で失敗した場合のインパクトが計り知れないからだと思う。 すべての人は事態を十分理解しているが政府を初め議会も世論も救済の成功率が極めて低いと考えている。 

「ビッグ3の再生は困難であり倒産は避けられない。 しかし自動車産業自体が巨大で周辺産業への影響を考えると倒産させるべきではない。 政府が直接救済に乗り出すのは法的にも難しく国民の理解も得られそうにない。」 このようなジレンマが終わりに近づいたブッシュ政権とまだ稼動していないオバマ政権のハザマにあって具体策が出てこないのがますます事態を悪くしている。 

不況が深刻化しつつあるなか自動車産業再生の成否がアメリカ経済社会の将来を占う上で最重要であることは言うまでもない。 過去2-3ヶ月アメリカ自動車産業の危機が取りざたされて以来TVのスクリーンにはGMやFordの工場の作業現場、従業員や家族へのインタビュー、デトロイトのオートショウなどの映像がたびたび写しだされるがいかにも老大国という印象を持たざるを得ない。 画面に映るのは文字どうり中年以降の年配者ばかりで若い人の姿が全く見当たらないのである。 最も華やかな自動車ショウで新車の説明に当たっているのが全くスピーチにも魅力を感じさせない高齢のEVP。
これはアメリカの会社がリストラをするときには入社年次の若い順に解雇するので必然的に年配の労働者が残る。 リストラを繰り返せば繰り返すほど社員の高齢化が進んでゆく。 アメリカには定年制度がないので老舗の企業ほど従業員の高齢化が進んでゆく。 有能な若者が育つどころか定着しない。 自動車産業のイージーなリストラの付けが今如実に現れてきたといっても良いだろう。
社員の年齢が若ければよいというものではないがベテランの知識や経験と若い人の新鮮なアイデア、エネルギーがバランス取れてこそ会社は安定した成長を遂げるのではないだろうか。

2008年12月12日金曜日

再びビッグ3救済策

一昨日の日経コラムの記事に対して投稿するため下記の原稿を準備していた。
<Quote>
私は1968年以来アメリカと日本を往復し滞米31年になりました。 ニュージャージー州の私が住んでいるコミュニティでは60%が日本車になっています。 20年前から取引先の多くのアメリカ人言っていました。 「Buy American 賛成だけど私が買う車は日本車」

90年代前半まではまだキャデラックやリンカーン・コンチネンタルはステイタス・シンボルでした。 今はノスタルジック・カーでお年寄りしか乗っていません。現在では日本車もアメリカ車も性能は大して変わりません。 アメリカ車が売れない理由はいろいろありますが一番の原因は魅力のある車がないのです。 車は現代人の最大のファッションですから性能や乗り心地を含めた総合的に魅力のある車でないと売れないのです。
一年前の今頃は世界販売台数ではトヨタとGMが970万台あたりでトップの座を争っていました。 そのとき発表された決算内容はトヨタが2007年度9月中間連結決算で営業利益が1兆2721億円に対しGMは2007年7-9月期だけで389億6300万ドル(約4兆4400億円)の赤字でした。 両者とも土俵はほぼ同じなので経営の差としか言いようがありません。 この差はトヨタとその周辺企業の長年の企業努力の賜物でしょう。 1960年代からアメリカにおける日本車を知っているだけに感無量です。

しかし一方では“Japan as No. 1”との言葉に惑わされいかにも日本が経済の世界ではNo.1になったかのような錯覚に陥り「慢心と傲慢」になってはいなかったでしょうか。 トヨタの経営幹部がこうならないように自らを戒めていると聞いてさすがだと思いました。


1990年当時の中曽根首相はアメリカ議会で演説し“Japan is Unsinkable Battleship”と大見得を切ったのは「慢心と傲慢」の頂点であったように思います。 その後すぐにバルブがはじけて日本経済は長期に浮上できない潜水艦になってしまいました。 バブルは経済偏重・物質主義偏向を生み本当の豊かな生活を経験することなく見かけの繁栄は短期間で終わってしまいました。また多くの企業にとって生産や技術は一流でも経営は旧態依然、社会の急激な変化についていけず経営に果敢なリーダーシップがなかったことも原因でしょう。 全体で言えば日本は確かに経済的には成功しましたが経済以上のものにチャレンジする目標を見出せなかったののも原因でしょう。 経済以上のものに挑戦することで新しい経済が生まれることを日本の社会が早く認識してほしいと思っています。

12月10日アメリカの下院でビッグ3の救済策が130億ドルに縮小してやっと可決されましたが多くに議員さんたちはまだ反対の意見を表明したりビッグ3の再生に疑問を投げかけています。
私もビッグ3の回復は無理だと思っています。 巨大企業の文化は一丁一石には変えることはできません。 Fさんのコラムを読んで特にその感を強くしました。
ビッグ3はいずれChapter 11(会社更生法)を宣言して再出発する以外方法はないでしょう。

日本の企業は「慢心と傲慢」を戒めると共に「果敢な挑戦」を忘れないでほしいと思います。
<Unquote>


前回第一回目の投票は下院で否決されていたので下院を中心に反対派の説得工作が続けられていた。 今回これが功を奏して下院では賛成237、反対170の大差で可決、上院でも当然賛成多数で可決されると思っていた。 
ところが上院の共和党の多数の議員が救済策は内容が再建には不十分で賃金が日本の自動車メーカー並に引き下げねばならないと現在の救済案には反対していた。 つまり現状ではつなぎの140億ドルの救済資金をつぎ込んでも再建は不可能とみているのだ。 大抵の経済人ならこの意見は理解できるだろう。 実質的にはUAW(全米自動車労組)に賃金引下げを要求しているわけだがUAWは昨夜即座にこの要求を拒否している。 これで上院議員の多数を硬化させてしまって結局はビッグ3救済法案は廃案になってしまった。 
GMとクライスラーは資金繰りが年末ぎりぎりと言われておりいよいよ倒産に追いやられようとしている。 
しばらくは対策がなく来年1月発足のオバマ新政権を待たざるを得ないのか? さすがに不安がよぎる。 1930年台のように大不況・大失業時代がやってくるのか。 本日12月12日の市場のの反応を見てみよう。

2008年12月5日金曜日

ビッグ3公聴会・2日目

昨日の上院公聴会に続いて本日は下院の金融委員会(Financial Committee)にてビッグ3救済の公聴会が行われた。
上院下院とも議員さんの3分の2はLaw School を出ており弁護士や検察官の資格を持っている。 その他の議員さんも地方議会や市民活動を経て中央政界にでてきた議論のベテランばかりである。 彼らはプロフェッショナルとして十分鍛えられているので審議・尋問は鋭く核心を捉えている。 曖昧な答弁は許されない。 情緒的で曖昧な答えはさらに追求され自分の面目を失うばかりか本来の目的である自動車産業への支援も失いかねない。 議員さんは国民に対する説明責任と自動車産業破綻という国家的経済危機をどう乗り切るかの重大な責任を負っているので議論も真剣そのものだ。 この公聴会を聞いていると自動車産業のみならずアメリカ産業の実情がよく理解できる。 日本の政治家も産業人もこの公聴会に注目して他山の石とすべきであろう。
救済反対派は1)公的機関でない自動車産業3社に340億ドルの税金をつぎ込むのは自由主義経済の原則に反する。2)再建策に十分な確信が持てない。UAWの譲歩が十分ではなく賃金とベネフィットの大幅な削減がなくては会社は十分な利益を確保することが出来ず競争には勝てない。 3)長年ぬるま湯につかった巨大産業を改革することは容易なことではなく近い将来巨額の負債を返済できる可能性が少ない。
注目すべき意見はクライスラーは80%の株式を投資会社・サーベラスが保有してる非公開会社であってサーベラス自身は巨額の利益を保持しているので親会社のサーベラスがクライスラーを援護すべきであり非公開会社に税金をつぎ込むのはおかしいという議論がある。 反対派は自由経済の原則論を主張している。
救済賛成派はとにかく今は大不況の入り口にあり何とか歯止めをかけないと自動車産業とその周辺産業だけでもさらに300万人の失業者が出ることとなりアメリカ経済全体がさらに沈み込み最悪のブラックホールに落ち込んでしまうと懸念している。 つまり理屈よりも現実論である。
全員が何とかしなければならないという共通の認識に立っているからおそらく救済策は可決されると思うがクライスラーがはずされる可能性もある。
論議は煮詰まっており対策は急を要するので来週には採決に持ち込まれるだろう。

これに比べて日本経済はアメリカほど窮地に立っているとは思えないが早急な措置が必要にもかかわらず日本の国会での論議は情緒的で論議がかみ合わない。 国語の不得意な首相と議論と演説が嫌いな野党党首が2大政党のヘッドである政界であるから形だけイギリスやアメリカの政治をまねたところでまともな論議・質疑は出来ないだろう。
そもそも質問者自身が論理的な議論を展開できないのでたとえ国会の証人喚問がおこなわれても本来の目的を果たせないのである。
これは多くの国会議員が地縁・血縁・金縁をベースに選出されてくるので何も経験のない大学在学中の子弟が議員に担ぎ出されたり何の実績もリーダーシップもない二世議員が順送りで大臣になったりする。 かかる国会では質の高い政治が期待できるわけがない。 結局は何だカンだいいながら同じような国会議員を送り出している国民に責任がある。 残念ながら日本の国会は国民の政治レベルを表していると言わざるをえない。

2008年12月4日木曜日

ビッグ3の救済と議会

12月4日上院(Banking Commitee)によるビッグ3の2回目の公聴会が開かれた。 前回の公聴会ではビッグ3の首脳の対応があまりにもお粗末で今回改めて再建策を聞くことになっていた。

現ブッシュ政権がもとめているビッグ3への救済策を与党の共和党議員が頑固に反対しているのは倒産すれば社会的影響が大きいからといって巨額の税金をつぎ込むのは自由主義経済の原則に反するというものだ。 反対しているのは民主党の議員も同じであるが次期大統領オバマが緊急な援助が必要との認識にたっていることとナンシー・ペロシ下院院内総務の強力な指導のもと一応条件を付けて過半数が賛成に回り救済法案を可決する準備は整っている。

上記のような政権と議会・議員の行動は政治体制が異なるとはいえ日本の政治には見られない風景である。
日本の場合は議員内閣制で首相は衆院議員の選挙で選ばれ通常与党の党首が首相に就任する。 当然のことながら首相と議員の関係は非常に密接であり首相=与党といっても過言ではない。 双方意見が異なる場合でも表向きには事前に調整されて首相=与党の構図は変わらず首相に与党議員が法案をめぐって強力に反対することはありえない。 また日本の場合は党議拘束が通常的で反対は裏切りとみなされしばしば党の懲罰を受けることになる。
首相も勿論衆議院議員であるから立候補した選挙区の選挙民に選ばれたことには違いないが一般国民との距離は非常に大きい。

アメリカの大統領は国民によって直接選ばれるので国民との距離は非常に近く親近感がある。 また議員さんたちも国民によって選ばれているわけだが「民意の代表」という認識が日本の議員さんに比べて格段に強く国民の意見・感情に非常に敏感であって議員と選挙民は非常に密接である。 逆説的に言えば国民の政治意識が議員の国民に対する意識を高めているともいえる。 CNNが今週初めに行った世論調査では国民の61%がビッグ3のBailoutに反対、賛成は31%。 自動車産業の地元ミシガン州でも53%の人がBailoutに反対というから世論に敏感な議員さんたちが党の首脳が賛成しているからといっておいそれと賛成票を投じるわけには行かないのである。

またアメリカの場合は党の方針よりも自分の政治信条と選挙区の意見を優先する傾向にあり大抵の法案に対して共和党、民主党双方に賛成・反対票があり日本の議会のように与党が全員賛成、野党は全員反対とはならない。
現在の日本の政治は国民の意図を離れて議会は政局ゲームの場となってしまった。
日本はねじれ現象で議会運営がデッドロックになり国民生活に支障をきたしているのだが一度党議拘束をはずして無記名投票にでもすれば民主主義が復活し政治が活性化するのではないかと思うのである。