2008年11月19日水曜日

ビッグ3が危ない

サブプライムローンの破綻で始まった金融危機はついにアメリカの自動車メーカー・ビッグ3を倒産の危機に追い込んでいる。 過去2年にわたるガソリン価格の高騰により大型車が売れなくなり大型車中心の生産を続けていたビッグ3は連続して大幅な赤字を出していた。 金融危機によってクレジットクランチがおこり巨額の運転資金を必要とする巨大な自動車メーカーが窮地に追い込まれている。 

昨年9月に3年ぶりにアメリカの同じ土地に戻ってきた時廻りの環境も人もまったく変わらなかったが「車の事情」だけが変わったように思った。 
1.日本車の数が異常に増えていた。
2.アメリカ車を除く日本車・欧州車の高級車が増えたこと。
3.アメリカ車はSUVが目立った。 全体の3分の1はSUV
4.アメリカメーカーのセダンはスタイルが野暮ったく見えてまったく魅力がなかった。

一年前にも巨額の赤字決算を発表、一方トヨタは破竹の勢いでGMを抜いてNo.1メーカーになることは誰の目にも明らかだった。 全くの門外漢で自動車には素人の私にさえビッグ3の凋落があまりにも目に付くぐらいだから内部は相当ガタガタで崩壊が進んでいたのかも知れない。 しかし誰も一年後に倒産の危機に追い込まれるとは予想していなかった。 ビッグ3の危機はガソリンの高騰と金融危機のせいと思われがちだがそれがなくとも遅かれ早かれ深刻な経営危機は訪れていたと思われる。長期的に経営困難が予想されていたにもかかわらず経営陣はなぜ抜本的な対策を講じてこなかったのだろう。


先週議会で開かれたビッグ3救済のための公聴会で3人の経営トップには会社危機に対する真摯な態度と具体策がなかった。 これには救済しようと努力していた民主党議員からも怒りをかって採決さえ見送られてしまった。 次回の公聴会で再建案を提出するまで支援は延期されてしまったのである。 経営危機はさらに深まりGMの経営者は倒産さえ選択肢に加えはじめた。 このような傲慢な経営トップの会社には議会ひいては国民の理解、協力を得られないだろう。


半世紀にもわたる会社全体の傲慢さは危機に際してもすぐに転換できるとは思えない。 環境問題で世界的課題である自動車のガス規制もブッシュと協力して反故にしてしまった。 自らチャレンジする精神をなくしてしまっては現代の競争社会を生き残れるわけはない。 自由主義を信奉し競争こそが進歩のエネルギーであると説いているアメリカ社会にあってビッグ3の姿勢は反社会的、反アメリカ的存在である。 企業化精神を忘れた会社には優秀な技術者、チャレンジングな若者は集まらない。 だから彼らが製造する車のスタイルや技術に魅力的なものがなく売れないのだと思う。 彼らは販売不振の原因を高値のガソリンのせいにしているが根本的な原因ではないのである。

もうひとつの原因はUAW(全米自動車労働組合)という自動車産業組合の存在がある。 アメリカの労働組合は会社別組合ではなく産業別の組合だから会社の経営状況に合わせた会社別の交渉というわけには行かない。 日本と比べて相対的に組合の力が強く取るものは徹底的に取るという常時敵対的な関係で会社と協力して生産性を高めようなどという意識は全くない。 結果的にビッグ3の労働者は6桁の収入を得ることができた。 それだけではない。 フリンジベネフィットも至れりつくせり、退職後でさえ十分なペンションと健康保険の給付を受けられるなど信じられないほどのベネフィットを受け取っている。(最近経営を圧迫する原因だとして徐々にベネフィットは削られているが) しかしよほど生産性が高くなければ平均で6桁以上の給料を払って経営が成り立つとは思えない。 市場が悪化すればすぐに人員整理、これが景気に対する最大の調整弁であるとすればあまりにイージーすぎる。 


生産性の低下ー開発投資の減少ー新車/魅力のある車の不足ー人材の流出・新規確保補充の困難ー販売不振ー利益の現象ー生産性の低下といった悪循環を長年断ち切れないでいる。 経営陣もすぐには会社再建案を提出できないのは当然と思う。


しかし世の中はビッグ3が倒産してもらっては困るのである。 失業者は増え景気はもっと悪化する。 これ以上株価が下がればデフレがいっそう深刻化する。 大恐慌になればアメリカ国民だけでなく世界の人々が大迷惑だ。 何とかせねばならないと思っているのはオバマ時期大統領だけではない。 

しかしビッグ3という巨象は年老いて深刻な病に冒され何時倒れるかわからない状況だ。 蘇生のためにカンフル注射をしたところで何時まで持つか疑問視されている。 これが議会が救済のための資金注入をためらっている一番の原因である。 しかし今倒れてもらっては影響が大きすぎてみんなが困る。 何とかせねばならないと思っているのはブッシュもオバマも同じこと。 大きなディレンマを抱えてオバマ政権はスタートしなければならない。