愛と希望があるから生きられる。
人種差別、ケニヤ人の父と白人の母を持ったアイデンティティの混乱、Food Stampに頼る貧困, 荒廃したサウスサイド・シカゴでの生活 いずれを取ってもオバマの半生は厳しく困難なものであったに違いない。 いくら高邁な志があるからといっても途中で挫折してもおかしくなかった。
彼だけが厳しい人生を強いられただけではない。 ケニア人と結婚した母、シングルマザーになった母、オバマを引き取って育てた祖父母、 決して裕福ではない家庭でオバマの成長に心血を注いだ。 祖母はオバマに学校に通わせるため昼夜無く働いた。
1960代年から1970年代にかけてアメリカは今では想像できないほど人種偏見、差別が存在していた。 公民権法案は成立したものの人々は頭と心の中をすぐに変える事はできなかったのだ。 白人社会の白人家庭で黒人の少年を育てることはとても勇気のいることであり理不尽な中傷にも耐える忍耐が必要だった。 そのような環境の中で母親と祖母はオバマ少年に出来る限りの愛情と教育を与えた。
彼が誰にもぶつける事ができない苦悩を乗り越えて大統領にまでなれたのはまず母親と祖父母の愛情とともに教育に対する投資を忘れなかったからでこれは彼自身が一番よく知っている。 だからキャンペーン中にも教育の充実が政策のひとつの柱であると公約していた。 学校では「TVのスィッチをきりなさいと言えないのです」としばしばキャンペーンで世の親たちに訴えていたのは家庭教育の重要性を認識していなければいえることではないと思う。 家庭教育をしっかりやらなければ根本的な社会の問題は解決できないと確信しているからである。 この一言でもってオバマが家庭でどのような躾を受けていたかがしのばれる。
ハーバード大学に入って彼は次第に将来の目標が定まってきた。 彼は自分の生い立ちを振り返って恵まれない人のために力になろうと考えた。 もっとも最短距離で目的が達成できるのは政治家になることだ。 彼はハーバード・ロースクールを卒業しても高給が約束されている弁護士や投資銀行のエリート社員にならずシカゴの弁護士事務所を振り出しにサウスサイド・シカゴのコミュニティ・オーガナイザーとして貧困地区の再生に取り組んだ。 それ以降イリノイ州の上院議員になろうがイリノイ州選出の上院議員になろうが次期大統領に選出されようが「他人のためになろう」という彼の信条は変わらない。 彼はリンカーン大統領が好きでリンカーンの言葉や信条をよく引用するが彼の頭の中にはいつも「人民の人民による人民のための政治」というのが頭にあるようだ。 彼にはこのような信条がありそれを実現するための野心はあるが私心が見えない。 半生をかけて培ってきた信条は少々のことではぶれない。 キャンペーン中にもライト牧師の暴言、 シカゴの不動産業者との関わり、 過激派エイヤーとの交流など直接関係の無いうわさの捏造、ばかばかしい中傷など民主党の対抗馬や共和党の候補からあらぬ非難や中傷を浴びてもオバマはいつも冷静で最低限の反論しかしなかった。 オバマキャンペーンの間でも彼の冷静さが物足りない、やられるならやり返すというのがアメリカ流だからもっと相手を攻撃したほうが良いという内部の意見があったが彼は彼流の冷静さを貫いた。 ヒラリー・クリントンは演説が滑らかだが各地で多数派に媚を売るような有権者べったりのリップ・サービスを繰り返していたが結局のところ一貫性が無く国民にそっぽを剥かれることになってしまった。
オバマは初めから「改革は痛みを伴う。 すべての人に良い政策はありえない。 すべてのことを一度に解決できるわけはない。」と初めから国民に向かって訴えている。 彼の政治の目標がはっきりしているのでどのような場面に直面してもぶれないのだろう。 そして最後に国民の信頼を勝ち得たのである。
オバマはいつも遠くを見ているような眼をしている。 大統領選を勝ち抜き勝利したその夜でもバイデン以下キャンペーンの仲間たち、シカゴのグランドパークに集まった15万の群集も一回に喜びを爆発させていたがオバマ自信は笑っていなかった。 来るべき試練と大きな責任に気持ちを引き締めているような厳しい顔をしていたのが印象的である。
オバマがハーバード大学とハーバード・ロースクールを卒業したきわめて優秀な人物であることは間違いないがハーバードというトップ・ブランドが社会の表と裏でとても大きな役割を果たしている。 一般社会でもハーバード卒なら普通の関門はノーパスでOK. 特に大統領選挙では民主党・共和党を問わず候補者がハーバードかエール卒業である場合はハーバードマシーンやエールマシーンがフル回転するといわれている。 ハーバードのアメリカでのネームバリューは東大の日本におけるネームバリューよりの上だろう。 何しろ世界の秀才が集まり激しく論議して幅広くネットワークを構築していくダイナミックな組織だから非常に多くの才能が開花し実社会に出てゆく。 単にアカデミックな知識を誇る学者の館ではないのである。
高度な教育を受けた者ほど偏見が少なく広く先が見える。 教育程度が上がるほどオバマ支持率が上がるというのは選挙結果の分析で明らかだ。
これからオバマに関する書籍は今後長く出版されると思うが執筆する人もエピソードが多くて楽しいと思う。
オバマが私に一年かけて教えてくれたことをまとめてみれば
1.子供を育てるには一にも二にも愛情が大切であること。
2.信条とそれを達成する希望を持って決してぶれないこと。
3.常に上を向いて勉強を怠らず広くネットワークを築くこと。
オバマ次期大統領は大統領になる前からアメリカ国民に良い刺激を与えているようだ。