2008年2月28日木曜日

大型竜巻と地球温暖化

大型竜巻と地球温暖化 

2月5日Super Tuesdayの夕方、選挙速報が流れる中アメリカ南部を襲った大竜巻(Tornado)のニュースと映像がスポット的に報道されていた。 竜巻は恐ろしいが通常被害は局部的でせいぜい幅50-100メートル 長さが数百メートルに止まる。
しかし今回の竜巻は数百マイルにわたる前線に沿って90個の竜巻がタッチダウン、アーカンソウ、テネシー、ミズリー、アラバマ、ケンタッキーの5州で56人もの死者がでた。
East Texasから北東にアーカンソウ州を縦断、ミズリー州まで延びた前線は勢いが衰えぬまま東に500マイルほどシフトしジョージア、W.ヴァージニアまでScraperで引っ掻くように被害を拡大した。 竜巻はよくあることで見慣れているものの今回のように広範囲ですさまじいのは初めてだ。 普通なら学校、教会、ショッピングモールなどの大きな建物は大丈夫といわれ人々は緊急にこのような建物に非難する事もあるが今回は大きな建物でも倒壊または大きな被害を蒙った。 普通の家などひとたまりもない。テネシー州に住むある家族はいち早く地下のシェルターに非難して無事だったが地上の家はそのままもぎ取られて50メートル先の草原に着地、逃げ遅れた飼い犬、家畜は空に舞い上がって行方不明になってしまった。 

最近の自然災害は竜巻だけでなくハリケーン、洪水、旱魃、地震、津波などが世界中で頻発、しかも年々大型化している。 このような大型災害は地球温暖化と無縁ではない。

私は気象学者ではないが20年ほど農産物(綿花・国際商品)の取引に携わっていた関係で気候や天気のメカニズムには一般の人より詳しい。

北極圏の冷たい空気は所どころで南に向かって流れ出す。 これを寒舌という。 地球温暖化によって北極圏の氷が普通以上に溶け出し大洋に流れ出すと同じように北極圏の寒気も袋が破れて一気に水が流れるように南に張り出す。 球形のボールに密閉されたような地球の空気は対流する。つまり寒気が南に押し出されれば南の暖かい空気は寒舌の両側で北上する。 この境目が前線であるが近年寒気の張り出しが大きいので普通は地球の中緯度付近を流れているジェット気流が大きく蛇行する。 記録的な暑さや寒さを繰り返すのはこのためである。前線が停滞すると激しい雨で洪水になるか暖かい空気が残留すると旱魃になる。
特に前線の東側では寒気と暖気が激しくぶつかり合うので天気が荒れる。 竜巻は局所的に冷たい空気と暖かい空気が衝突してできるのだが大陸内部の平原では寒暖の差が大きく空気のバランスが崩れやすいので竜巻が発生しやすい。 エネルギーの大きな前線ほど竜巻は大型になる。 これからも今回のような大型竜巻はしばしば起こるだろう。 大型台風も同じことである。 

地球のエネルギーは100%太陽から来ている。 地球の温度は、太陽から流れ込む日射エネルギーと地球自体が宇宙に向けて放出する熱放射と地表に向けて下方放射するエネルギーのバランスによって定まる。
人間の活動が地球上いたるところで活発になり化石燃料をエネルギー源として大量使用することにより大気中の炭酸ガスの量が増える。 炭酸ガスの厚い層によって地球がカバーされる事によって宇宙に放出されるエネルギーの量が減る。 余分のエネルギーが地表にとどまり大気と地表の温度が上がるというのが温室ガス効果(Green House Effect)である。 (ここまではよく知られた科学の常識である)

(すでに研究しメカニズムを解明している人がいるかもしれないが以下は私の想像力で構築した仮説であるからそのつもりで読んでいただきたい)
大気と地表のエネルギーは地表の温度上昇に影響するだけでなく地中にも浸透する。 つまり地球をオーブンで暖めると同じ事で内部のマグマを活性化させ膨張させる。 当然火山活動は活発になる。 海水や地表の温度の上昇で海底を緩やかに移動している地球表層部のプレートもまた加速的に膨張しプレート同士の衝突が頻繁に繰り返されることになる。 大型地震の多発するのはやはり地球温暖化と温室ガス効果のせいである。

地球の温暖化が問題視されてきたのは昨今のことではない。 1970年代の半ばにCIAが気候の変化(特に地球の温度の変化)でソ連の穀物生産がどのように変化するかを研究した論文の抜粋を当時のTelex News読んだ記憶がある。
私の記憶では平均気温が1℃下がるとソ連の穀物生産は15%減少し2℃下がる40%減少すると結論づけていたように思うが数字は確かではない。(CIA Reportをもとに他の研究機関・研究者が発表したシミュレーションかもしれない) 

上記の記憶をもとにインターネットで検索した結果下記のCIA Reportを見つけた。
USSR: THE IMPACT OF RECENT CLIMATE CHANGE ON GRAIN PRODUCTION (ER 76-10577)  Created: 10/1/1976

私の記憶にある数字は確認できなかったが天候による穀物生産の影響がいかに大きいかが読み取れる。
この研究は気温だけでなくこれと相関関係にある降雨量も重要な要因であることを結論付けているが元をたどれば北極圏の寒気の張り出し具合が原因であって現在問題となっている地球温暖化の影響と全く同じメカニズムである。 
しかもこの影響を受けるのは旧ソ連だけでなく北半球にある米国、中国でも同じことである。
特に高緯度に位置する穀物生産地は気温に対してぎりぎりのMarginal Lineにあり気候の変化を受けやすい。 
平均気温が1℃下がれば北辺の地は生産が激減する。 平均気温が1℃あがれば中緯度に位置する耕作地や牧草地は砂漠化する。 地球全体の平均温度が1℃上下すれば世界各地の穀物生産は大きな影響を受けるだろう。 2度上下すれば動物を含めた生物全体の生態系が崩れ穀物生産は壊滅的な打撃を受けるだろう。

近年Biotechnologyの発達により寒冷化または温暖化に強い品種が開発されてリスクをある程度克服してきたとはいえ気候の変化が激しければ植物の適応性、新種開発は追いつかない。 CIAは一国の食料生産が国家の安全に大きな影響を及ぼすことを前提に30年以上も前に各国の穀物生産・食料供給を研究していたのである。 第一次石油ショックの後、キッシンジャー補佐官・国務長官が石油に代わる食料の世界戦略を考えていたのは1970年代の半ばではなかっただろうか。

私の少ない蔵書の中に「巨大穀物商社」 -アメリカ食糧戦略のかげに- 1979年 ダン・モーガン著“Merchants of Grain”がある。 (NHK食糧問題取材班監訳 喜多迅鷹・喜多元子訳 1980年 日本放送出版協会)

この本は世界の穀物取引を牛耳る5大穀物企業が国家の壁を越えて世界中に貼りめぐらした秘密の情報網と系列の会社を駆使した取引の実態を画いている。 レポートで今読んでも迫力満点、とても30年以上前に書き下ろされたものとは思えない。 実態は今も変わらないだろう。 変わらないどころかITとCommunicationとBiotechnologyを駆使して30年前とは比べ物にならないほど巨大で強力なものになっているに違いない。

(余談だがこの著書ではいずれの穀物商も極端な秘密主義で会社も個人もなかなかアプローチが難しく世間では会社の名前すら知られていないと書いているがいまや最大手:カーギル(Cargill)はよくTVコマーシャルに登場する。 このコングロメリットは彼らの取扱う穀物がすべての食品の原料として消費者の生活に直結していることを認識してPublic Relationを重視する方向に転換したのかもしれない。 時代の変化である。)

“Global Warming” または “Climate Change” がどれほど前から認識されていたかを調べるためNY TimesのWebsiteでアーカイブを検索してみた。

1851-1980年 “Global Warming” で検索結果 67件ヒット 内16件は関係なし。 最も古いのは
May 30th, 1947  “Warming Arctic Climate Melting Glaciers Faster, Raising Ocean Level, Scientist Says”
LOS ANGELES, May 29 -- A mysterious warming of the climate is slowly manifesting itself in the Arctic, engendering a "serious international problem," Dr. Hans Ahlmann, noted Swedish geophysicist, said today.

1970年台初めから急に掲載記事が増え始めるが70年代前半は主としてオゾン層を破壊するフロンガス対策に関するもので70年代後半に炭酸ガスの温室効果を危惧する記事が増え始める。
しかし70年代は反対意見もありまだ確信を持てないようであった。 

1948-1980年 “Climate Change” で検索結果 24件ヒット 内6件関係なし
最も古いのは
May 23, 1953 “How Industry May Change Climate”
The amount of carbon dioxide in the air will double by the year 2080 and raise the temperature an average of at least 4 per cent. The burning of about two billion tons of coal and oil a year keeps the average ground temperature somewhat higher than it would otherwise b

小麦や米の供給が充分であることが社会秩序と政治的安定にとっての必要条件である。 これは自由主義国であろうが共産主義国であろうが古今東西変わりはない。 

1960年代から1970年にかけてソ連は農業生産不振と農産物価格の高騰に悩まされていた。 その上共産圏の首長として対外援助の約束と自国の第9次5カ年計画との板ばさみとなっていた。1970年12月ポーランドの食料価格の値上げに端を発した暴動をきっかけにソ連は密かに穀物不足を輸入で補う決断をしたのである。 
1972年には世界各地が旱魃に襲われその上ソ連が国際マーケットから大量の穀物を買付けたためアメリカの穀物価格は異常な高騰を生じた。

この一年後、1973年10月に勃発した第四次中東戦争が引き金となり、第一次オイルショックが始まった。 具体的には、原油価格が3ドル/バレルから12ドルヘと4倍値上がりし、日本ではトイレットペーパーの買占め騒ぎが起った。
このオイルショックから6年後の1979年1月、今度はイランで起きた革命の影響で石油価格が34ドル/バレルへと大幅に上昇する第二次オイルショックが起きアルミ精錬などのエネルギー大量消費型の産業に大打撃を与えた。

現在は第3次オイルショックとも言える原油価格の高騰に見舞われている。 原油の高騰はガソリン価格の高騰にとどまらずあらゆる物資の価格に影響を及ぼし始めた。 今回の物価の上昇は明らかにコストインフレであり供給タイトではない。 パニックにならないのは先進国の穀物生産を含むあらゆる物資の生産にはまだ余力と余剰があるからだ。

石油が無くなれば大変だ。 しかし原油価格がべらぼうに上がったとしても供給がストップするわけではない。 産油国は微笑みながら石油が出る限り供給する。 ごく最近原油価格が$100を越えてもパニックにはなっていない。

本当に恐ろしいのは食料不足である。 食べ物は一日たりとも欠くことは出来ない。
革命はパンの値段から始まる。 1789年のフランスの暴動はパンが不足した都市で始まり、その結果ルイ王朝は崩壊した。 
ダン・モーガンはMerchants of Grainの前書きで次のように述べている。
「穀物は現代文明にとって石油よりはるかに重要な資源である。 人間の生命と健康維持に不可欠なものであることは云うまでもない」
数日先の食料の確保が難しいとなれば人々はパニックに陥る。 一年先にでも食料不足が予想されればパニックになってもおかしくない。 中国とインドが現在のアメリカや日本と同じ水準の生活をするとすれば食料はおろか一夜にしてあらゆる物資が不足してしまう。 その時は近い将来確実にやってくる。

その時は資本主義も社会主義もキリスト教もモスレムも関係ない。 持てる国と持てない国の格差は広がり食料を求めて激しい国際紛争が多発するだろう。 

アメリカは長い間余剰穀物の処理に頭を抱えていたしその財政負担も限界に来ていた。
日本の食糧管理法も同じこと、米の過剰生産と特別会計の財政負担に悩んでいた。
日本人で飢えを経験している人は殆どいなくなった。 たとえいたとしてもそれは戦中戦後の一時的経済的混乱のせいであって1950年以降食料不足で危機に直面したことはない。 

むしろ我々は長い間飽食に慣れてしまった。 10分歩けばいつでも世界中の食材を買って好きなように調理ができる。 我々の興味は何処で新鮮な野菜が手に入るか、何処で美味しい肉や魚が買えるのか、個々の食品の安全性はどうなのかというところにあり量的なものには全く関心がない。 3億人のアメリカ人が何の問題も無く食しているアメリカ産の牛肉を1億人の日本の消費者全員が一億分の一あるかないかのBSEのリスクを心配して米国産の牛肉の購入をためらっている。 つい2週間ほど前にロサンジェルスの精肉業者がBSEの疑いのある牛を堵殺してひき肉に混入してしまい史上最大のひき肉回収事件になった。  この肉は給食にも使用され殆ど消費されているというのだがアメリカ人はそれほど気にしていない。  
中国産の毒入り餃子は論外だが現在食品で少々の問題が発生してもパニックにはならない。
なぜなら今日本を含む先進国では食料は有り余っているからだ。 いくらでも代替品は見つかるし台所で困ることはない。 しかも生産している量の半分しか消費されていないという。 (調理過程でゴミとなるか食べ残しで捨てられる) 

私たちは食料があまりにもたやすく手に入るので食料が国民と国家の生命線であること真剣には考えていない。 しかし地球温暖化と食糧危機は背中合わせなのだ。
北極の氷山が異常に流れ出したとしても食糧危機はまだ頭に浮かばない。 しかし魚の取れ方や漁獲量に変化は出ている。 大型台風や大竜巻が連続して発生してもまだ食料危機とは結びつかない。 それはまだ局地的な被害にとどまっているからだ。

今人々はやっと地球温暖化の影響について知り始めたばかりだ。 各国個別に対策を考え始めた。 しかし国際的に炭酸ガスの発生量を抑えるにはどうすればよいかの話し合いを始めたばかりで世界的な合意は得られていない。 現実はこれからまだ炭酸ガスは増え続けるのだ。 今すぐ世界主要国で最大限対策を講じたとしても炭酸ガスが減少に転じるのは10年先になるだろう。 すでにそのときは地球の温度は1℃上がっている。

ゴア元副大統領が地球温暖化対策でノーベル賞を受賞したことはアメリカに対する痛烈な皮肉であると共に真剣な警告である。 次の大統領は誰がなっても地球温暖化対策を採ることを公約の一つにしているので早く実行段階に移行してほしい。 財政赤字もそうだが炭酸ガスの負担を孫の代まで持ち越してはならない。

人類は地球最大の危機を英知で乗りきれるだろうか。