2008年1月13日日曜日

米大統領選挙(その5)  共和党ディベート

1月10日 共和党ディベート

1月19日にS. カロライナ州で共和党予備選(Primary)を控えて1月10日にマータルビーチ、SCで共和党のディベートが行われた。 民主党のPrimaryは1週間遅れの1月26日だ。 
ここまで来てさらにディベートが用意されているのに驚いたが予備選が進むにつれて候補者も政策の論点も絞られてくるからに詰まった論議が展開されて面白い。 観るほうにしても候補者の信条や経歴、弱点など予備知識が出来ているから理解し易い。 
ディベートに招かれたのはマッケーン上院議員(Navyパイロット、元ベトナム捕虜) ハッカビー元アーカンソウ州知事(元牧師) ロムニー元マサチューセッツ州知事(投資会社元CEO) ジュリアニ元NY市長(対テロ対策強化、ブッシュ支持者) トンプソン上院議員〈元ハリウッド俳優〉 ポール下院議員〈議員生活40年、共和党唯一のイラク戦反対、即時撤退主張〉の6名、顔ぶれも経歴も多彩である。 ディベートの中で各候補の言葉に経験がおのずと滲み出す。
ディベートでは抽象論・観念論やレトリックだけでは通用しないことを候補者たちは充分承知しているから自ら係わった政策、事業を例に挙げるか、または他の例(今回はReagan Coalitionがたびたび取り上げられた)を引き合いに出して議論する。
どこかの国の選挙みたいにファミリーネームだけが大きい2世・3世議員が頭を並べひたすらにお願いを繰り返すのとは次元が違う。

ディベートはほぼ経済問題と不法移民対策に集中された。
アメリカの経済はリセッションへの入口との認識が共有されたがマッケーンとジュリアニは減税、Family Valueの建直し、アメリカ優位を貫くための軍事力強化によっていわゆるレーガン流の”強いアメリカ“への回帰を強く主張した。〈ジュリアニはスマートで切れるがたびたびレーガンを引き合いに出していては古い話であり自分の存在が小さくみえるのでやめた方がいい〉
ロムニー、ハッカビー、トンプソン、ポールは“Washington is broken” とあからさまにブッシュ政権を非難しロムニーは企業経営とマサチューセッツ州知事時代の実績を上げてアッピール、ハッカビーもアーカンソウ州知事での改革と同じ手法で経済改革をすると主張した。
トンプソンは同じ南部出身であり支持層がハッカビーと競合している。ハッカビー保守層の票を取り戻すためにハッカビーを経済政策でも外交でも“リベラル”で(保守派の中でリベラルと呼ばれるのは“裏切者”といわれるのと同じらしい)“あなたのやってきたことはReagan RevolutionでもReagan Coalitionでもない“とこき下ろした。 〈ハッカビーはすぐに反論したがここでは省く〉
ポールは共和党内でも一匹狼だからまるで民主党員より激しくブッシュ政権やWashington Establishment非難した。
「(イラク戦争やサブプライム問題で)国内経済をガタガタにして中国とアラブから巨額の借金をし(Citi, BoA, Merrillなどが巨額の資金投入を要請)一方イラクで一つも仕事を取れずに巨大な戦費を垂れ流し、挙句の果てに高騰した石油を毎日買わされている。 一体アメリカはなしをしているのだ!」一段高い拍手と歓声が沸いた。 共和党民主党を問わず今のアメリカ人の声を代表していると思った。 これまで空振りばかりしていたポールの予期せぬホームランである。
経済問題はイラク戦争〈膨大な戦費〉と切り離せない。 イラク戦争を早く終結しないと他の政策が進められないというポールの意見には説得力がある。 

不法移民対策は国境での取締強化で一致しているが1200万人もいる不法滞在の取扱、具対策となると難しい。 唯一ジュリアニ元市長がNYで実施・経験しているが対処療法で根本的解決策とは言いがたい。 
共和党から大統領が出ればメキシコ国境は緊張するだろうしラテン系住民の反発は強まるだろう。

1時間半のディベートの内容は論点を絞っていたのでわかりやすく内容の濃いものになった。
各候補のCharacterもかなり反映されていた。 激しい言葉のExchangeもあったけれど全般に大人のディベートであって民主党のディベートよりも程度が高い。
〈民主党のディベートは精神論・抽象論になりがちで論議は常にUpper Class vs. Middle/Lower Classの構図がベースにあり大統領を選ぶ選挙としては次元が低い〉

私の採点では総合点ではやはりハッカビーが一番良い。 バランスがとれていて明るく生き生きしている。
全国Pollで一位のジュリアニの影が薄い。 〈全国Pollは予備選ではあまり意味がないそうだが〉 マッケーンは最も真面目で現実的な政治家だがカリスマ性に欠け一般大衆にどこまで通じるか。今日のディベートでは良くもなし悪くもなし。 ロムニーはやはりビジネス向きで政治家としての資質に疑問。 Likeable Personとは云いがたい。 トンプソンはカウンターパンチばかりで自分の主張がよくわからない。 ポールは72歳、年を感じさせるが今日は大ホームラン。でも打率は非常に低いので上位打順出場は難しいだろう。

1. 放映終了直後の視聴者の「ディベートでの勝者は誰か」のPollの結果が面白い。
今まで全国的にもアイオワ/ニューハンプシャーでも4%を越えなかったロン・ポールが35%でトップ、以下トンプソン、ハッカビーマッケーンと続いているのでディベートでの勝者はホームランを打ったポールということになる。
2. Fox Newsがディベートの地元S.カロライナの有権者から選出しスタジオに集まった25人の評価は圧倒的にトンプソン(68%)が勝利〈ストレートのカウンターパンチが効いた〉
3. 10日の全国版Poll(CNN)ではマッケーン(34%)ハッカビー(21%)ジュリアニ(18%)ロムニー(14%)
一ヶ月前のPollでは13%だったマッケーンがニューハンプシャーでの勝利で勢いを得て一気に全国版に躍り出た。 

次回予備選(1月15日)のミシガン州だけのPoll(NY Times)では
共和党: ロムニー(21%)ハッカビー(19%)ジュリアニ(12%)マッケーン(10%)
民主党: クリントン(49%)オバマ(19%)エドワード(15%)
こんなに数字が跳んでは大メディアも間違うはずだ。 ニューハンプシャーの予備選では各メディアのPoll〈民主党に関して〉と選挙結果が大幅に違ったがこのことについて充分な説明はしていない。
あまりPollに振り回されないようにしよう。