2008年1月2日水曜日

米大統領選挙(その2)  予備選スタート

Iowa Caucus を控えて


アメリカの正月はクリスマスホリデーのおまけみたいなものだから日本の正月のようにゆっくり休んで新年の英気を養うといった雰囲気はない。 しかし今年はなんと言っても大統領選挙の年であり1月3日にはIowaで予備選が始まる。 いまや袋小路に入ってしまって先行き暗いアメリカを何とか変えることは出来ないか?変えることが出来るのは誰か? そんな国民の期待が凝縮されているのが今回の選挙である。 
好き嫌いは別としてアメリカは世界のポリスマンでありリーダーだから選挙の結果は大げさに言えば地球の将来に影響する。 私はアメリカ国民でなく投票権がないにもかかわらず大いなる興味を持ってこの選挙を見守っているのは間接的には日本や私個人にも影響があるとおもうからだ。
 
各党の候補者選びはホームストレッチに入った。 民主・共和両党とも予想外のダンゴレースでいっそう熱気を帯びてきた。 民主党は初の女性候補か黒人候補になる可能性が高い。 共和党はダークホースだった保守系右派のハッカビー・アーカンソウ州知事が頭一つリードしている。 いずれにせよ本選に入る前から話題の多い選挙といえよう。
私は個人的に支持する候補者はないが国内外にアメリカの顔として知られた人より実力が未知数でも全く新しい顔の方がアメリカはリフレッシュ且つリノベート出来るとおもう。

私が大統領選挙に興味を持つもう一つの理由は民主主義の基本と理想をこの大統領選挙に見るからでありその過程で各候補者の演説から数多くの示唆に富んだ提言を見出すからである。
またすべての候補が初めから党の候補に選ばれる可能性や確信をもって選挙に臨んでいるとは思えない。 一部の候補は選挙を利用して国民に問題点を提起しかつ国民を啓蒙しようと試みているようにみえる。
その一人がマッケーン(John McCain)上院議員である。 正月1日にも彼は雪の舞うIowaの集会で原子力発電の重要性を説いていた。 
“――地球の温暖化防止は待ったなしの状態です。 残念ながら我アメリカは未だに何もやっていないに等しい状況であります。 温暖化防止にはまず化石燃料の使用を極小化しなければならないがわが国はエネルギーの殆どを化石燃料に頼っており世界最大の石油輸入国です。 しかもこれは毎日何十億ドルもの膨大な金額がアラブ産油国に流れていることを意味しています。 石油に依存している限り貴方のポケットから貴方のお金がどんどんアラブの懐に流れていく。 しかもこのままでは毎年金額は増えてゆくでしょう。 貴方のためにもアメリカのためにも地球のためにも「脱石油」は必要なのです。 それには今のところ原子力発電しかありません。アメリカはこの30年一度も事故を起こしたことはありません。 フランスは全体のエネルギー供給の80%を原子力発電で賄っています。 原子力発電による廃棄物処理の問題も現場で行うという方針と対策が出来上がりました。 是非原子力発電を進めたいと思います。”

なんと説得力のある論理と演説であろうか! 目から鱗とはこのことではないかと思った。
ジョン・マッケーン議員は過去2回現ブッシュ大統領と共和党候補の座を争ったベテランである。 共和党良識派の最右翼と目され現政府のネオコングループとは一線を画す。 このマッケーン候補〈共和党〉を民主党の重鎮・リーバーマン上院議員が支持すると宣言し応援に駆けつけた。 リーバーマンは2000年に現ブッシュ大統領と大統領選挙を争ったゴア元副大統領の副大統領候補だった人である。 2人は親しい友人で所属党は異なっても信条は似ていると言われる。
アメリカでは個人の信条が党よりも優先するといわれる一例であると共に政治社会の成熟と政治家の余裕を示す証拠だろう。
日本なら民主党の管さんが自民党の総裁選で麻生さん支持を表明し〈もし信条が同じなら〉応援するようなもので日本ならありえない話である。

TVの報道は9月から11月にかけての各党ディベートから12月以降アイオワのタウンミーティングへと切替わった。
共和党は選挙民による一般的予備選挙(Primary)だが 民主党は党員選挙(Iowa Caucus党員集会での選挙システムはかなりややこしい。)で党員の個別引き抜き合戦みたいなもので直接対話よって選挙民を獲得してゆく。 少人数のグループとの対話であるから“生の声”が聴こえ“本当の顔”が至近距離で見えるので支持を自分の判断で決めやすい。
日本の国政選挙では名前ばかりで顔も見えず政策や信条を身近に聞いて確かめる機会も少ないので自分の一票の重みを実感できないでいるがIowa Caucusのような選挙方式であれば自分の票の重みを実感できるのではないかと思う。
いずれにせよ民主主義の基本は対話とディベートだ。 対話は一方的では成り立たずディベートでは論理をベースに議論しないと話にならない。 この点アメリカ国民は子供の頃からSpeakerとしてもListenerとしてもよく訓練されておりルールが身についているので限られた時間内に内容のある討議ができる。 多民族、多宗教の人々が一つの国家としてまとまっていくには対話を通じてコンセンサスを形成していく以外に方法はないのである。 

大統領選挙は個人的立候補宣言からディベート・予備選を通じての候補者選び、本選の選挙まで約2年にわたる長丁場だ。これを戦い抜くには体力はもとより誹謗中傷に耐えうる強力な精神力また難しい質問をうまくかわして自己主張に切り替える頭脳とテクニックに長けていなければとても戦い抜くことは出来ない。 たとえ途中でドロップしたとしてもこれまで運動を続けてきた候補者には尊敬と拍手を送りたい。

4年に一回繰り返されるこの一大政治イベントの費用が莫大な金額になることは各候補者が集めた選挙資金の大きさによってわかる。 選挙戦を通じて国家の直面する問題点を洗い出し徹底的にオープンに国民の前で議論することが多民族国家の大国を統合維持していくためにどれほど役に立っていることか。 民主主義を維持するための費用は決して安くないが無駄な費用ではない。 

ブッシュ大統領がアメリカの民主主義を他の世界に押し付けるのは間違いだと思う。しかし一方では世界〈多民族・多宗教〉が平和共存できる理想とモデルをアメリカ自身が演出しているかに見えるがこれは非現実的な夢に過ぎないのだろうか。