2008年1月9日水曜日

米大統領選挙〈その4)  ニューハンプシャー予備選

New Hampshire Primary

ニューハンプシャーはこれといった産業はなくスキーリゾートと秋の紅葉が有名で観光と小規模な農業や牧畜など自給自足的な個人経営が主体の地味な州である。 
あくまで個人的な感想だがこのような田舎であっても生活水準は高く(1人あたり所得全米7位)生活スタイルは保守的でも思想的にはリベラルで環境問題や教育に対して関心も高い。 
ニューヨークやボストンなど大都会に住む人にとってはメイン州・ニューハンプシャー州・バーモント州の自然にめぐまれた環境の中で自由に生活することはある種の憧れであり別荘を持っている人も多い。
1981年の映画“On Golden Pond”-黄昏〈ヘンリー・フォンダ、キャサリーン・ヘップバーン、ジェーン・フォンダ〉はニューハンプシャーのSquam Lakeで撮影された。
1987年の映画“Baby Boom”はNYのキャリアウーマン(ダイアン・キートン)がバーモントの自然な生活にめざめる話。 2つの映画の映像とストリーを思い出せばこの地方の景色と生活が想像できると思う。

ニューハンプシャーの予備選では民主党・共和党いずれにも属さない独立の人(組織に束縛されない自由人)が45%を占め〈Caucus とは異なり〉ここでは両党どちらにでも投票できるから両党の候補者選びと共に独立票が民主党・共和党どちらに流れるかが大いに注目されるところである。

マッケーン候補はキャンペーンの当初からニューハンプシャーに焦点を絞り環境問題を特別にクローズアップして「地球温暖化防止」「脱石油・ニ酸化炭素排出課税」「原子力発電推進」など具体策をあげてアッピールしている。 このような背景を理解すればアイオワで4位だったマッケーン候補が1位になる可能性が高いだろう。 
今年はアメリカの現状打破を命題として各候補が“Change”を合言葉にしている。 ”Change”が選挙の大きな表題とすればWashingtonのEstablishmentはイメージ的にはマイナスだ。
Voterは党派を超えて新人候補に支持的であるように思える。

予備選がニューヨーク州やカリフォルニア州のようなBig Statesと同時に行われるのではなくアイオワ(1%)やニューハンプシャー(0.3%)のような小さな州で始まりここでの動きが全米をリードする流れを作るところに大きな意味がある。

民主党オバマ候補はアイオワで予期せぬ流れを作りあげてしまった。 ニューハンプシャーでの選挙前日のPollではオバマ(39%)クリントン(29%)まで差が開いた。 勢いとは恐ろしいものである。

午後8時に投票が締め切られ逐次開票結果がスクリーンの掲示板に表示される。
直前のPollからして共和党・マッケーン候補と民主党オバマ候補がトップでリードをキープするものと思っていた。
共和党は予想どおり初めからマッケーンが5-6%の差をつけて開票が進み30分そこそこで当確のサインがついた。 独立票の大多数を集めた楽勝といってよい。
一方民主党は開票直後から“???”戸惑いが走った。 クリントンがトップを走ってオバマがなかなか追いつかない。 TVキャスターの言葉はなんとなく様子を見みながら解説待ちといった雰囲気である。 開票開始から1時間以上、開票率35%を越えてもクリントン得票率(39-40%)オバマ(36-38%)と変わらない。ここまで来てもどのメディアも「当確」のアナウンスをしない。 理由はHanover地区(Dartmouth University)とDurham地区〈University of New Hampshire〉は開票が遅れておりこの地区のマジョリティがオバマ支持と目されているのでなかなか断定できないと云うのである
私は「当確」発表が遅れたのはメディアがPollに拘ったからだと思う。 最終段階ではPollに近い数字が出てくるものと信じていたに違いない。 アメリカはPollと分析技術に優れておりまた誰もがこれを尊重する傾向がある。 したがってPollが結果とこれほど違うとは誰も想像できなかった。

開票結果は
共和党: マッケーン(37%) ロムニー(32%) ハッカビー(11%)
マッケーンは予想どおり勝利したが共和党主流ではなく資金もタイトだからこれから中間・リベラル派を何処まで結集できるかが鍵。 ロムニーはカムバックが難しくなった。 ハッカビーはこれからが正念場。 出遅れた本命・元NY市長ジュリアニが1月19日のサウスカロライナ州の予備選から本格登場。 今後はマッケーン、ハッカビー、ジュリアニの三つ巴レースになると思われる。

民主党: クリントン(39%) オバマ(36%) エドワード(17%)
クリントンの勝利は女性票の引き戻しといわれている。 前回アイオワでは女性票をオバマにさらわれてしまったのでニューハンプシャーでは徹底的なローラー作戦で女性票を掘り起こしクリントン陣営としては本来あるべき姿である女性票で優位を獲得する作戦が成功した。

もう一つ面白い話がある “ヒラリーが見せた涙”〈連日この映像が放映されている〉 
裏話ではなく選挙前日のカフェミーティングの途中だった。 
聴衆の一人が質問した「How do you keep up so wonderful?」
ヒラリー「私が心から正しいことをしていると信じなければ容易いことではありません。
私はこの国がとても多くのOpportunity を持っていると信じているのでこれを後ろ向きにすることは出来ません。・・誰かが方向を変えなければ!・・政治は誰かが上がり誰かが下がるゲームという人がいますが、政治は国そのものであり子どもたちの将来であるのです。・・・」 ヒラリーは途中で声を詰まらせ涙をみせた。 本来涙を見せるような場ではないにも拘わらず彼女はEmotionalになった。
ヒラリーのResponseに対し意見は二つに分かれた。 初めて“人間らしさを見せた”と好意的に見る見方と“演技のうそ涙”と懐疑的な見方である。 Video Newsを5回ほど繰り返し見た。今まで言葉が先行していた彼女が始めて心から信条を語ったと思った。 今までの選挙演説にはない心のうちを語ったものと受け止めた。 

私はオバマが予想に反して2位にとどまった原因は共和党・マッケーン候補が45%を占める独立票を取りすぎたからだと思っている。 独立票は共和党・民主党どちらに投票してもよいのだが共和党ならマッケーンに投じられ民主党ならオバマに投じられたはずだ。 もしマッケーン候補がロムニーと同じ様な得票数ならおそらくオバマはクリントンに勝っていたかもしれない。 2-3%の差で2位につけたことは健闘といってよい。
民主党はクリントンvs.オバマのマッチレースの構図ができあがった。


ニューハンプシャーの予備選は両党同時に行われるから実際には関係のない両党の選挙がお互いに微妙に影響しあうのは避けられない。 まず党内の対立候補に勝利しなければならないのは当然であるが反対党の候補の中で誰が有利なのか?誰が選ばれるのかを意識しながら〈演説にも含めながら〉選挙戦を進めなければならないのは観戦者にとっては面白い。

Feb. 5のSuper Tuesday (ニューヨーク州、カリフォルニア州を含む20州の予備選挙が行われそれで大勢が決する)まで一ヶ月、下記のスケデュールでPrimary/Caucusは続く。

Jan. 15 Michigan Primary   Democrats & Republican
Jan. 19 Nevada Caucus   Democrats & Republican
Jan. 19 S. Carolina Primary  Republican only
Jan. 26 S. Carolina Primary Democrats only
Jan. 29 Florida Primary   Democrats & Republican
Feb. 1 Maine Caucus    Democrats & Republican

予備選のことは選挙方式・ルールを始めまだまだわからないことが多い。 上記スケデュールでも判るように両党同時予備選のところばかりではないようだ。 実は1月8日のニューハンプシャーの予備選が第2回の予備選と思っていたが1月5日にワイオミング州で共和党のdelegate selectionがあってロムニー候補が指名を獲得していたことを一昨日知った。
いずれにせよ予備選は両党同日同じ州でやるのに特に意味がある。 選挙は始まったばかりで予備選だけでもまだまだ波乱があるような気がする。