Bedminster, Where I Live-Where I Love
私が住んできるニュージャージー州ベッドミンスター(Bedminster)はNY/マンハッタンからハドソン川をこえて78 号線を真西に車で40分走ったところにある。 さらに西に40分走ればペンシルベニア州に入る。 287号線を北に50分でUpstate New Yorkに抜け南はプリンストンまで40分のとても便利なロケーションにある。 ニュージャージー州はアメリカで4番目に小さな州だ。
この地には今から350年ほど前に宗教の自由を求めてヨーロッパ各地から渡ってきた人々が次第に定着した。1794年には英国王ジョージ2世によりTownship of BedminsterとしてCharter(英国王から個人・商社などに下付された特許状により建設された植民地)されてから正式に英国の植民地になった。 当然英国の影響が強くなりイングランドや アイルランドからの移住が増えた。 郡(County) の名前をサマーセット(Somerset)と云いベッドミンスターという町の名前も近郊の町(Oldwick, Bernardsville, Basking Ridge, Somerville, Somerset)もイングランドのサマーセット郡にある町の名前から取ったそうだ。
私は1990年代の初めにこの近くのゴルフ場に来たときになんと自然の美しい田舎だと感動したがこの辺一帯の地形と景色がロンドン郊外の緑があふれるローリングヒルに似ていると思ったのは私だけではない。 しかし会社からは遠いし全くの田舎だと思っていたから10年ほどあとにここに住むことになるとは思ってもみなかった。
19世紀の終わりごろにNYの裕福なファミリーがカントリーライフを楽しために”Farm”と称する牧草地に大邸宅を建て始めた。 同じ頃にNYの大富豪Grand B. Schleyが将来の開発を見越して1500 Acresの丘陵地を買った。 この土地が1970年台の後半から25年かけて出来上がったニュージャージ州最大の新興住宅開発地 “The Hills”である。 50年ほど前は100戸もなかったこの田舎にいまや3600戸/8400人が住む町になった。 コンドミニアム, タウンハウス, 一戸建からなる22個のコミュニティとショッピングセンター, ドクタービル. 小中学校がある。
RuralとUrbanの境目にあるこの町が大規模開発にもかかわらず100年昔と変わらぬ美しさを保っているのは市の開発のビジョン, 住民の自然保護の精神と新たな開発ラッシュのプレシャーと戦う意思と努力を抜きには考えられない。
開発が急速に進んだのは1966年にHighway 287が、1970年にHighway 78が開通したことによる。 交通の至便さからAT&TやMerckなど巨大企業の本社・研究所が相次いでこの付近に移転してきた。同時にOfficeや住宅の需要が高まり周辺は次第に開発されてきた。
ベッドミンスターの開発の成功は町の一部に新規開発を集中し残りの自然を守ったことだろう。人口の95%が総面積(16,400 Acres)の9%の“The Hills”に集中的に住んでいて残りの91%(15,000 Acres)がFarmである。Farmとは大邸宅付きの牧場で勿論全部私有地である。 この土地が100年以上変わらぬ自然の美しさを保っているのは広大な土地の所有者もタウンハウスの住民も付近に散在する企業も全員がこの自然環境の保全を望みそれぞれにその費用を負担しているからだ。
しかし土地の所有は永遠ではない。個人であれ法人であれ事情があって手放さねばならない時もある。 これほど魅力にあふれまとまった土地なら売りに出されれば即時に売れるだろう。 不動産大手や投資家グループにとっては数百エーカーの土地を買収するのは大した金額ではない。
彼らと対抗しどうすればこの土地と自然を守れるのか市当局と住民は長年知恵をしぼってきた。いずれにせよ自然と土地を保全したい市当局・住民と開発のために是非手に入れたい業者の間ではなかなか話がまとまらない。土地売買と開発をめぐって両者の間で長年訴訟がいまも絶えないのである。 訴訟費の負担増加がまたこの町の財政を圧迫している。
1998年以降私が知っている環境保護と土地保全のための3つのエピソードをご紹介しよう。
(その1)
1990年代通信業界の最大手AT&Tは通信・IT革命に遅れを取り経営が悪化していた。
1998年リストラクチャリングの一環としてBedminster/Far Hillsにまたがる”Moorland Farm” (250 Acres)を売り出すことになった。 NJ鉄道Peapack-Gradstone線・Far Hills駅のすぐ前である。 駅を降りて10mほどの道を横切ればそこが牧場の入口で草地と林が緩やかな丘の稜線まで続いている。 丘の上には大きなLandmark Farmにふさわしい大きな南欧風の邸宅と併設されたサイロと厩舎がみえる。
しかしこの土地の売却には全体をオープンスペースとして残し”Steeple Chase Horse Race”(草競馬)とローカルのピクニックやマラソン以外に使用することは出来ないという条件がついていた。
さらに市当局は買手が将来万一転売せねばならない事態になったとしても次の所有者は最大限10エーカーに18戸の建設のみ認められるという制限も付けていた。 これでは新たな開発は出来ない。
結局富豪の有志が集まって“こんな素晴らしい条件”の付いた物件はよそ者の手に渡る前に我々が買い取るべきであるということになりFar Hills Race Meeting AssociationというNPOを組織して買い取ることになった。 Moorland Farmは今もFar Hills駅舎と共にBedminsterのLand Markとして残っている。
(その2)
1983年にモロッコの王様・ハッサン2世は別荘としてFar Hills駅から西の丘陵一帯に広がる500 AcresのFarmを買った。 丘の上にあるこの大邸宅は1906年に建てられたEnglish County Houseで“Natirar”と呼ばれている歴史的建物である。 この丘の上から眺めるRaritan Valleyの景色はまさに"Gorgeous"というに相応しい。
ハッサン国王は2年かけてこの邸宅を改装したが完成したときに一度訪れただけでその後一度も泊まったことはなかったそうだ。 1999年にハッサン2世がなくなりこの土地は売却されることになった。
不動産開発業者にしてみれば駅近くの広大な土地-主要Hwy287線とHwy78に数分でアクセスできる便利さ、しかもインフラはすべて整っている土地-は喉から手が出るほど欲しい物件だ。
“Natirar”の建物は文化財的価値のある一番大きな建物で敷地を流れるRaritan Riverの支流は水道源としても利用されている。 自然と文化財保護に熱心な住民の陳情でSomerset Countyが買取りCounty Parkとして一般公開することになった。 “Natirar”の建物と周辺の土地80Acresは英国の実業家・冒険家Sir Richard Bronsonがリースして“Virgin Spa at Natirar”というメンバー制高級リゾートホテルとして生まれ変わることになった。 現在改装中で2009年にオープン予定。 これで自然はそのまま残り歴史的な建物も改築して保存されることになった。 周辺一帯が一般公開されたおかげで私の散策コースがまた1つふえたのである。
(その3)
Bedminsterの中央に495エーカーのFarmlandがある。 この地の所有者はボストンに住む85歳(2001年当時)の老婦人であった。 ここは牧草地で特に何かを経営しているわけではなかったが正式には毎年$210万ドル(¥2億3千万)の不動産税を払わねばならなかった。
何もしないでこれだけの税金を払えるのは相当の資産家でなければならないが2000年以降土地の価格が毎年上がるため不動産税も急激にあがってきた。 以前からこの土地の売却問題は何度もうわさされていたが市当局も土地評価を抑えたり税金を特別に割り引いたり個別交渉で売りに出されないよう協力していたのである。 この方法も限度があり老婦人はこの土地を手放さざるを得なくなった。
対策に窮した市当局は議会に諮り緊急避難的に市がこの地の税金を直接負担することにして彼女に売却を思いとどまってもらうことになった。ということは市民全員がそれぞれの土地の所有面積に応じて自然環境保護税を支払うことになったのである。 私のタウンハウスはわずか1/4エーカーだが$82.00の自然保護税を支払うことになった。 私は$82.00でこれだけの美しい自然を満喫させてもらえるなら喜んで支払う。 しかし100エーカーの所有者なら自分自身の不動産税に加えて$32,400を追加負担しなければならない。 何時までもこの方式が続くはずがない。 結局この土地は2002年にNYの不動産王Donald Trumpがゴルフ場建設のために買い取った。
市としては商業地・宅地として開発されるよりはゴルフ場として開発されるほうがまだましという次善の策をとったのかもしれない。 現在はTrump National Golf Clubとしてオープンしている。(まだ一部工事中) US Openも可能な36 ホールの名門コースを目指して400本の巨木を移植し景観を整えたという。 以前に時々ドライブしていた美しいCountry Roadが今はゴルフ場の造成中になくなってしまったのは残念だが近い将来メジャートーナメントが開催されることを期待している。
いくらお金持ちといえども個人としては限度がある。 また時を経てこれらの資産を相続する人たちも経済的には大きな負担をしなければならない。 個人の資産に比べれば不動産業者、開発事業者、投資ファンドグループなど企業の資金は無限大といってよい。
いつまでこの美しい自然と景観を保存し続けられるかはひとえに住民の意思と何処まで経済的負担に耐えられるかによるが、結局いくら個人の資産家グループが結束しても市民レベルでは大きな資金に対抗できないので公的機関が介入・買上げする以外開発をストップすることは出来ないだろう。
私が住んできるニュージャージー州ベッドミンスター(Bedminster)はNY/マンハッタンからハドソン川をこえて78 号線を真西に車で40分走ったところにある。 さらに西に40分走ればペンシルベニア州に入る。 287号線を北に50分でUpstate New Yorkに抜け南はプリンストンまで40分のとても便利なロケーションにある。 ニュージャージー州はアメリカで4番目に小さな州だ。
この地には今から350年ほど前に宗教の自由を求めてヨーロッパ各地から渡ってきた人々が次第に定着した。1794年には英国王ジョージ2世によりTownship of BedminsterとしてCharter(英国王から個人・商社などに下付された特許状により建設された植民地)されてから正式に英国の植民地になった。 当然英国の影響が強くなりイングランドや アイルランドからの移住が増えた。 郡(County) の名前をサマーセット(Somerset)と云いベッドミンスターという町の名前も近郊の町(Oldwick, Bernardsville, Basking Ridge, Somerville, Somerset)もイングランドのサマーセット郡にある町の名前から取ったそうだ。
私は1990年代の初めにこの近くのゴルフ場に来たときになんと自然の美しい田舎だと感動したがこの辺一帯の地形と景色がロンドン郊外の緑があふれるローリングヒルに似ていると思ったのは私だけではない。 しかし会社からは遠いし全くの田舎だと思っていたから10年ほどあとにここに住むことになるとは思ってもみなかった。
19世紀の終わりごろにNYの裕福なファミリーがカントリーライフを楽しために”Farm”と称する牧草地に大邸宅を建て始めた。 同じ頃にNYの大富豪Grand B. Schleyが将来の開発を見越して1500 Acresの丘陵地を買った。 この土地が1970年台の後半から25年かけて出来上がったニュージャージ州最大の新興住宅開発地 “The Hills”である。 50年ほど前は100戸もなかったこの田舎にいまや3600戸/8400人が住む町になった。 コンドミニアム, タウンハウス, 一戸建からなる22個のコミュニティとショッピングセンター, ドクタービル. 小中学校がある。
RuralとUrbanの境目にあるこの町が大規模開発にもかかわらず100年昔と変わらぬ美しさを保っているのは市の開発のビジョン, 住民の自然保護の精神と新たな開発ラッシュのプレシャーと戦う意思と努力を抜きには考えられない。
開発が急速に進んだのは1966年にHighway 287が、1970年にHighway 78が開通したことによる。 交通の至便さからAT&TやMerckなど巨大企業の本社・研究所が相次いでこの付近に移転してきた。同時にOfficeや住宅の需要が高まり周辺は次第に開発されてきた。
ベッドミンスターの開発の成功は町の一部に新規開発を集中し残りの自然を守ったことだろう。人口の95%が総面積(16,400 Acres)の9%の“The Hills”に集中的に住んでいて残りの91%(15,000 Acres)がFarmである。Farmとは大邸宅付きの牧場で勿論全部私有地である。 この土地が100年以上変わらぬ自然の美しさを保っているのは広大な土地の所有者もタウンハウスの住民も付近に散在する企業も全員がこの自然環境の保全を望みそれぞれにその費用を負担しているからだ。
しかし土地の所有は永遠ではない。個人であれ法人であれ事情があって手放さねばならない時もある。 これほど魅力にあふれまとまった土地なら売りに出されれば即時に売れるだろう。 不動産大手や投資家グループにとっては数百エーカーの土地を買収するのは大した金額ではない。
彼らと対抗しどうすればこの土地と自然を守れるのか市当局と住民は長年知恵をしぼってきた。いずれにせよ自然と土地を保全したい市当局・住民と開発のために是非手に入れたい業者の間ではなかなか話がまとまらない。土地売買と開発をめぐって両者の間で長年訴訟がいまも絶えないのである。 訴訟費の負担増加がまたこの町の財政を圧迫している。
1998年以降私が知っている環境保護と土地保全のための3つのエピソードをご紹介しよう。
(その1)
1990年代通信業界の最大手AT&Tは通信・IT革命に遅れを取り経営が悪化していた。
1998年リストラクチャリングの一環としてBedminster/Far Hillsにまたがる”Moorland Farm” (250 Acres)を売り出すことになった。 NJ鉄道Peapack-Gradstone線・Far Hills駅のすぐ前である。 駅を降りて10mほどの道を横切ればそこが牧場の入口で草地と林が緩やかな丘の稜線まで続いている。 丘の上には大きなLandmark Farmにふさわしい大きな南欧風の邸宅と併設されたサイロと厩舎がみえる。
しかしこの土地の売却には全体をオープンスペースとして残し”Steeple Chase Horse Race”(草競馬)とローカルのピクニックやマラソン以外に使用することは出来ないという条件がついていた。
さらに市当局は買手が将来万一転売せねばならない事態になったとしても次の所有者は最大限10エーカーに18戸の建設のみ認められるという制限も付けていた。 これでは新たな開発は出来ない。
結局富豪の有志が集まって“こんな素晴らしい条件”の付いた物件はよそ者の手に渡る前に我々が買い取るべきであるということになりFar Hills Race Meeting AssociationというNPOを組織して買い取ることになった。 Moorland Farmは今もFar Hills駅舎と共にBedminsterのLand Markとして残っている。
(その2)
1983年にモロッコの王様・ハッサン2世は別荘としてFar Hills駅から西の丘陵一帯に広がる500 AcresのFarmを買った。 丘の上にあるこの大邸宅は1906年に建てられたEnglish County Houseで“Natirar”と呼ばれている歴史的建物である。 この丘の上から眺めるRaritan Valleyの景色はまさに"Gorgeous"というに相応しい。
ハッサン国王は2年かけてこの邸宅を改装したが完成したときに一度訪れただけでその後一度も泊まったことはなかったそうだ。 1999年にハッサン2世がなくなりこの土地は売却されることになった。
不動産開発業者にしてみれば駅近くの広大な土地-主要Hwy287線とHwy78に数分でアクセスできる便利さ、しかもインフラはすべて整っている土地-は喉から手が出るほど欲しい物件だ。
“Natirar”の建物は文化財的価値のある一番大きな建物で敷地を流れるRaritan Riverの支流は水道源としても利用されている。 自然と文化財保護に熱心な住民の陳情でSomerset Countyが買取りCounty Parkとして一般公開することになった。 “Natirar”の建物と周辺の土地80Acresは英国の実業家・冒険家Sir Richard Bronsonがリースして“Virgin Spa at Natirar”というメンバー制高級リゾートホテルとして生まれ変わることになった。 現在改装中で2009年にオープン予定。 これで自然はそのまま残り歴史的な建物も改築して保存されることになった。 周辺一帯が一般公開されたおかげで私の散策コースがまた1つふえたのである。
(その3)
Bedminsterの中央に495エーカーのFarmlandがある。 この地の所有者はボストンに住む85歳(2001年当時)の老婦人であった。 ここは牧草地で特に何かを経営しているわけではなかったが正式には毎年$210万ドル(¥2億3千万)の不動産税を払わねばならなかった。
何もしないでこれだけの税金を払えるのは相当の資産家でなければならないが2000年以降土地の価格が毎年上がるため不動産税も急激にあがってきた。 以前からこの土地の売却問題は何度もうわさされていたが市当局も土地評価を抑えたり税金を特別に割り引いたり個別交渉で売りに出されないよう協力していたのである。 この方法も限度があり老婦人はこの土地を手放さざるを得なくなった。
対策に窮した市当局は議会に諮り緊急避難的に市がこの地の税金を直接負担することにして彼女に売却を思いとどまってもらうことになった。ということは市民全員がそれぞれの土地の所有面積に応じて自然環境保護税を支払うことになったのである。 私のタウンハウスはわずか1/4エーカーだが$82.00の自然保護税を支払うことになった。 私は$82.00でこれだけの美しい自然を満喫させてもらえるなら喜んで支払う。 しかし100エーカーの所有者なら自分自身の不動産税に加えて$32,400を追加負担しなければならない。 何時までもこの方式が続くはずがない。 結局この土地は2002年にNYの不動産王Donald Trumpがゴルフ場建設のために買い取った。
市としては商業地・宅地として開発されるよりはゴルフ場として開発されるほうがまだましという次善の策をとったのかもしれない。 現在はTrump National Golf Clubとしてオープンしている。(まだ一部工事中) US Openも可能な36 ホールの名門コースを目指して400本の巨木を移植し景観を整えたという。 以前に時々ドライブしていた美しいCountry Roadが今はゴルフ場の造成中になくなってしまったのは残念だが近い将来メジャートーナメントが開催されることを期待している。
いくらお金持ちといえども個人としては限度がある。 また時を経てこれらの資産を相続する人たちも経済的には大きな負担をしなければならない。 個人の資産に比べれば不動産業者、開発事業者、投資ファンドグループなど企業の資金は無限大といってよい。
いつまでこの美しい自然と景観を保存し続けられるかはひとえに住民の意思と何処まで経済的負担に耐えられるかによるが、結局いくら個人の資産家グループが結束しても市民レベルでは大きな資金に対抗できないので公的機関が介入・買上げする以外開発をストップすることは出来ないだろう。