2014年8月10日 PGAチャンピオンシップ最終日 最終組のマカロイとウィバーガーが18番のティグラウンドに上がってきた時は既に午後8時を過ぎていた.この日は雨のため試合開始が2時間遅れゲームの大詰め18番では夕闇が迫り打ったボールを肉眼で見るのは難しい状態であった.
おそらく普通のゲームなら少なくとも30分前には日没サスペンデッドになっていただろう.選手がサスペンドを要求すれば主催者は試合の中断を決定できるが主催者自身は自ら試合の中止を提唱出来ないらしい.
18番のティーグランドでは前の組のミケルソンとファーラーがまだフェアウェーが開くのを待っていた.トップのマカロイと2位のミケルソンとファーラーの差は2ストローク、 今のマカロイの実力なら安全圏と思われるがメジャーの最終ラウンドでは何が起こるか判らない. だから最終ホール18番(パー5)周辺には数千人の観衆が夕闇で殆ど見えないにも拘らず最終決着の場面を見ようと一球一打固唾を飲んで見守っていた.
ミケルソンとファーラーが最後のティーショットを打って歩き出したがファーラーがすぐにティーグランドに戻ってきてマカロイに一言告げた.(二人の会話は聞こえなかったが私の想像ではこう言ったのだと思う)
ファーラー「俺たち着地点についたら君たちも打っていいよ.とにかく暗くなってきたから急がないとね」
マカロイ 「判った.ありがとう」
マカロイのティーショットは右のラフに, ウィバーガーのショットは左バンカーに.この時点で2組4個のボールが18番に存在する珍しい状況になった.
ミケルソンの第2打はグリーンにいったん落ちたがスピンがかかってバックし僅かにグリーンからこぼれてしまった. ファーラーはグリーン左のラフへ.ミケルソンの第三打が直接カップ・インすればイーグルでその時点ではマカロイとタイになる. ミケルソンはアプローチの名手、大観衆がミケルソンのボールを凝視、静粛がグリーン一帯を覆うなか、彼が打った第三打のチップショットはホールに向かってバウンドしながら柔らかく転がった.ボールがスピードを落とし止まる寸前入ったかと思ったがホールの数センチオーバーして止まった. イーグルはならなかったがイージー・バーディで一打差となった. ファーラーは第3打をオーバーして2パット、パーでホール・アウトした.
さてマカロイの第2打は左のバンカーへ.第3打でバンカーから出したがホールまで10mを残した.普通の状況ならばあと2パットでパーで上がるのは容易いが夕闇でホールがやっと見える暗さ.ラインを読むのは不可能だ. プロは自分の視覚で得た感覚を研ぎすまされた神経で腕と手と指先に伝えボールをヒットする.素人にも同じことは言えるがその微妙な感覚は100倍も鋭いものであろうから視界が悪いとプロといえども感覚は相当低下する.
マカロイは何時でもサスペンドを要求することは出来たが果敢にショットを放ちパットを打った.ファースト・パットは緊張のせいか暗させいか1m以上残して締まった.次のパットをはずせばミケルソンとのプレイオフ. サドンデスでも今日はこれ以上試合を続けることが出来ないので決着は明日に持ち越される.
グリーンサイドの観衆も肉眼では最終パットのボールを追うことは出来なかったであろう. マカロイが打ったボールが入ったのはコトンと音がして判った. 最終パットでマカロイの優勝が決まった.
マカロイの喜びが爆発し回りの大観衆に広がった.いい試合の満足感がすべてを支配した一瞬であった.
マカロイもミケルソンもファーラーもだれもゲームのサスペンドは要求しなかった.
彼らは18ホールで大観衆が待っているのを知っている.数百万のゴルフファンがTVを見ていることを知っている.たとえ自分が不利になろうともいいゲームを見せることがプロであることを知っている.
18番でミケルソンとファーラーがマカロイとウイバーガーを受け入れたのはフェアプレイでありファインプレイである. もう5分遅くなっていれば試合続行は不可能だったであろう.